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1章
4きゅん
しおりを挟む結局その後2社ほど大輝は真梨亜に付き添い会社ブースを回り、特に興味も無い資料で彼の鞄は重たくなった。
もう真梨亜はマスクは着けずに堂々とその顔を晒し、そんな彼女を伴って歩く大輝は海外セレブのボディーガードにでもなった気分になる。
ジロジロ見られることもそう気にならなかったし、むしろそれが快感というか…不思議な優越感さえ湧いてしまい心の中で自戒した。
「ありがとう、大輝くん。本当に助かった」
「いいよ、大袈裟だな」
「…ねぇ、本命ってどこ?今日の中にあった?」
「んー、ムラタは一応受ける…かな、分かんないけど。製造も販売も開発も視野に入れてる…なんで?」
「ううん…また…会えたらいいなって思っただけ」
そこに何か深い意味があるのだろうか。
大輝はよくある「また会いましょう」的な挨拶かと思い
「そうだね、また会えたらいいね」
と返し駅へ向かおうとつま先をそちらへ向ける。
「…待って、あたしもそっちだから…駅まで…一緒に帰ろ」
「うん、いいよ」
・
駅までの道中、二人は互いの大学の話や専攻科目についてをざっくりと話し親睦を深めた。
穏やかで聞き上手な大輝に対して真梨亜は「大人しくて優しい人」という印象を抱いた。
反対に大輝は彼女のことを「本性は勝ち気そうで怖い」とほんのり思ったが、口に出せるはずもなく表面上は和やかに会話が弾む。
「あとちょっとで来るね」
「うん…あ、」
駅に着いて背中合わせのホームでそれぞれ時刻表を確認して、ふと真梨亜を見れば夕陽が差してその結った髪がオレンジに染まっていて大輝はまた目を奪われた。
「…髪、オレンジになってる。キレイだね」
「…そう?」
「金より銀に近いんだね」
「周期があるの。金と銀の間を行ったり来たりするの」
「面白いね…あ、電車来たよ」
「うん…あ、あの、大輝くん!」
到着した電車がシューと音を立てて扉が開く。
通勤通学客が降りて観光客が吸い込まれていく人混みの中で、真梨亜は大輝に向き直る。
そして
「ありがとう、大輝くん。今日貴方はあたしのheroだった。また会いたい、連絡ちょうだいね」
と胸ポケットへ何かカードを挿し…ぎゅうとハグをして硬い頬へ口付けた。
「わ、あ、」
「挨拶よ、またね」
真梨亜は大輝を離すと軽い足取りで電車へ乗り込み、扉が閉まって発車しても手をひらひらと振る。
「えぇ、」
車両が見えなくなるまで大輝は頬を押さえぼうっと眺めて、ひと便乗り遅れるもその感触が消えるまでその場から動けなかった。
胸に当たった真梨亜のそれの感触、固い頬に当たった真梨亜の柔らかいそれの感触、スーツの二の腕を掴んだか弱い力。
大輝は初めての女性との交流にのぼせ上がってしまったのだ。
「(やわらか…あ、やばい、勃ってる…動けない…)」
大輝は幼少期から柔道を嗜んでおり、男子に限らず女子とも組み合っての練習は経験してきている。
神聖な道場の畳の上で道着で組めば、至近距離に顔があろうが縦四方固めをしようが体の接触なんて気にはならなかった。
それがどうしたことか向かって来られて体が反応しないばかりか簡単に組まれた上に口付けまでされて…
「(試合だったらすぐ投げられて終わってたな…試合じゃないけどさ)」
大輝はふわふわと浮いた脚でベンチへ掛けて落ち着こうと試みる。
「(そういや何か入れられた…名刺かな?)」
胸ポケットに挿し入れられたのは名刺大のアドレスカードで、可愛らしい縁取りの紙に手書きで真梨亜の名前と大学名が入っているメールアドレスが書かれていた。
いつも持ち歩いているのだろうか手際が良かった。
大輝は一応スマートフォンのアドレス帳に真梨亜情報を入力して登録を済ませる。
「(連絡…しないと失礼なのかな)」
とは言え何もお伝えする事項が無い、大輝はとりあえず
『今泉大輝です。就活頑張ろうね』
と無難なメールを送信してから次の電車へ乗った。
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