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9章

42きゅん

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「ただいま」

徒歩で帰宅した大輝はスーツの埃を払ってから腕に掛け、自室でむにむにと真梨亜に触られた頬を手でなぞる。

 細くて柔らかい指、自分のそれともコンシャのそれとも違う、瑞々みずみずしくて少しひんやりしていてしなやかで…あの手がいずれは自分のものに、と想像すれば期待半分重責半分で少し心がモヤついた。

 好かれるのは有り難いが身の程を知っているから荷が重い。

 どんなに好きだ好みだと褒められても自覚の無いことはセールスポイントにもならないし、そもそも真梨亜の価値観が大多数とズレているのだし。


「あ、お兄ちゃん、お帰りー」

 そのまま風呂に入ってしまおうとワイシャツ姿で居間を通過すれば、今し方風呂から上がったであろう妹が髪を拭きながら兄へ声を掛ける。

「あぁ、ただいま、これ…おみやげ置いとくね。知ってる?カフェ・コンシャっていう所に行ってきたんだ」

「え、お兄ちゃんデート?彼女できたの?誰?」

「で、デートだなんて言ってないだろ」

「嘘、デートスポットで有名な所だよ、あんなとこ男同士で行かないじゃん、ねぇ、誰と?教えてよぅ」

多感な妹は初めて聞く兄のロマンスに鼻息荒くぶんぶんとその腕にしがみ付いて揺らす。

 肉親とはいえ温かい女体に触れた大輝は

「…まだ…彼女じゃない」

と視線を逸らしてはぐらかした。

「口説いたの?いい感じなんでしょ?どうやって行ったの?」

「その子の車…」

「えー、車持ってるんだ、大人の人?ねぇ、写真とか無いの?ねぇねぇ」

「…そういや無いな…」

「送ってもらってよぅ、どんな子?可愛い?あ、お父さーん、お母さーん、お兄ちゃん、今日デートだったんだってー!」

「なになに」

「なんだなんだ」

「やめて、もう、」


 その後はお土産の輸入クッキーを中心に父・母・妹とダイニングテーブルを囲み、デートの詳細をインタビュー形式で尋問され…大輝はえらく疲弊した。

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