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7章
32きゅん
しおりを挟むそれは大輝があの出逢いからぼんやりと思っていたことで、突然現れた真梨亜は清く正しく生きてきた自分への神様のご褒美というか気まぐれみたいなものだと感じていた。
だって彼女の気を引くために助けた訳じゃない。
こんな過ぎた恩賞は絶対に裏があるし引き換えに何か差し出すか辛い思いをせねば割に合わない。
例えば今後立ち直れないくらい手酷くフラれるとか、結ばれた直後に怖い人が現れて「人の女に何しとんじゃ」と強請られるとか。
しかし真梨亜は難しい顔をした大輝をじいっと見つめて、
「助けてくれたし見た目も好みだから好きになったんだけど」
と紅い唇をまた尖らせる。
「んー……たまたまだよ、その偶然で逢えた真梨亜さんにしめしめって手を出すのが卑怯だって思っちゃうんだ、失礼だと思う」
「じゃあ逆に、どんな出逢いなら卑怯じゃないの?どんなのが順当?」
「長く一緒に居て、人柄をよく分かった上で惚れる、とか」
「一目惚れだって立派な動機よ…大輝くんのご両親は?立派な出逢いなの?」
「あー、高校の同級生だったんだって。それで同窓会で再会して付き合ったらしいよ」
昔馴染みはラブストーリーの王道、真梨亜は軽く衝撃的な表情をして
「ふーん…basicで良いわね…」
と萌えを噛み締めながらふむふむと首を振った。
「真梨亜さんのところは?」
「え、うちは…base、横須賀の米軍基地よ。食堂で目が合って、お互いにビビッと来たんだって」
「へぇ…え、軍人さんなの?」
「元、ね」
「へぇ…」
元海兵なら屈強なお父さんなのだろう、真梨亜が体の大きさに一目置くのもその影響なのかな、大輝はいろいろと納得する。
そしてお互い一目惚れなんてセンセーショナルな出逢いはいかにも外国人らしいし、誇らしげに娘に語ったからこそ真梨亜は一目惚れの魔力に取り憑かれているのだろう。
「なんとなくのfeelingで交際が始まっても20年以上続いてるんだから立派な出逢いでしょう?」
「結果論だよ」
「もー、大輝くんって屁理屈屋なのね」
ここまで言っても振り向かないし人の親の出逢いまで認めてくれないし、真梨亜は少々小馬鹿にするつもりで片目を歪めた。
直感を信じて突っ走ってはみたが勘違いだったのか、実は嫌われているのに柔らかく遠回しに断られているのか。
煮え切らない男に「これ短所ね」との思いが強くなる。
「そうだよ、臆病なんだ」
「…結婚願望とか無いの?一目惚れがダメならどうやって恋愛するつもりなの」
「……真剣に考えたこと無いんだ…でもするとすれば社会人になって稼げるようになって、結婚相談所にでも登録するよ」
「はぁ…なんであたしじゃダメなのよ」
「だから、早急過ぎるんだよ」
「……じゃあ、大輝くんが社会人になって稼げるようになるまで待って、それまでに親睦を深めておいて恋に発展するのが順当なのね?そうなのね?」
必要なのは時間、それが理由ならば待てば良い。
けれど
「理屈ではね…でもそれまでに真梨亜さんを惚れさせるなんて出来るかどうか」
と大輝が弱気を溢すもんだから
「なにそれぇ⁉︎もう嫌いなら嫌いって言ってよ‼︎」
と真梨亜のいい加減グラグラ沸いていた気持ちが爆発した。
「言って良いの?」
「嫌‼︎泣いちゃう‼︎もう、もう…期待させて…フってもくれないの?ひどい、大輝くん、男らしくなーい‼︎」
額にいくつか筋を付けた真梨亜はハンドルをバンバンと叩いて想定外にクラクションに触り、「ファッ」と軽く音が鳴ればビクッと背中を伸ばし両手を上げる。
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