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3章

10きゅん

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 翌日、大輝たいきは大学の図書館で調べ物をするために久々に登校した。

 自転車をふもとに停めて長い坂を歩いて登る。

 自動車通学の許可証を出されている者はこの上の駐車場に停められるのだが、生憎あいにくと大輝はマイカーはまだ持ち合わせていないので足腰の鍛錬たんれんと割り切って大きな歩幅でどしどし進む。

 春休みは当然だが学生がほとんど居らず、部活やサークルの集まりのために顔を出す者たちがちらほら歩いているくらいだった。


「(人が少ないからパソコンルーム借りようかな…あれを印刷して………ん?)」

坂の上の守衛所近くに到達しようという時、大輝は見覚えのある後ろ姿を見つけて目元が険しくなる。

 金色の長い髪、肉付きの良い体。

 守衛所で入校証を受け取り首から提げるその女性はキョロキョロと辺りを見回しては芝生の生えた中央広場へと向かって行く。

「(…あれ…真梨亜まりあさんだよな…他校合同サークルに参加とかしてんのかな…)」

メールに返事をしていないので後ろめたく、大輝はこそこそと門からすぐの1号館へ入り渡り廊下で隣へ隣へと図書館へと近付くことにした。

 見つかればきっと返信が無いことを詰められるかも、嫌ではないのだがグイグイ来る彼女の圧に体が反応し過ぎてしまうので都合が悪いのだ。


 図書館は校内の一番奥に建っていて、行き着くまでには傾斜がありなかなか体力を使う。

 大輝は広場を歩く金色の人影が小さくなっていくのを眺めつつ、渡し通路を進み奥へ奥へと校舎伝いに進んだ。

 別に自分宛に来ている訳でもあるまい、もしそうだとしたら何かしら連絡してから待ち合わせるはずだ。

 通常なら学生の居ない大学に来たって会える可能性なんてゼロに近いのだから。


「…疲れた…」

図書館の玄関に着いた大輝は持参した水筒の麦茶をぐびぐびと喉へ流して、唇の水気をしっかり拭いてから扉を開けた。

 3月の陽気では空調もどっちつかず、ただ歩き通した体はぽかぽかしているので館内はひどくぬるく感じる。

 大輝は代謝も良いのでじんわり汗が滲んで、書籍に影響しないようこれもすぐさま持参のタオルで拭いて鞄へ仕舞った。

「(あった…これこれ…)」

ゼミの課題は半分は自由研究みたいなもので、就職活動も準備期間に入ったことだし『できる人はやってみて』くらいなのだが余力のある大輝はとりあえず取り組むことにしている。

 文献や過去の研究論文などを参考にしつつ、これから手を付けねばならない卒業論文にも何らかの形で役には立つだろうと…そんな目論見もあった。





「(ふー…こんなもんか……春は気候が良くていい……そういや真梨亜さん…目的地まで着けたかな…)」

 彼女が何をしにここへ来たのかは知らないが広い校内で迷子になったら可哀想に思う。

 窓から見える景色はほぼ自然の山なのでたまに野生生物なども出没したりするからだ。

 スマートフォンを確認するも特に何の連絡も無し、昼も近くなりひと段落ついた大輝は校内で唯一開いているコンビニへと向かうことにした。
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