47 / 92
11章
46きゅん
しおりを挟む6月…大学生の新卒採用の選考がいよいよ解禁された。
各社がサイトに情報をアップ、一次選考の日時が次々と更新されて学生たちの心をはやらせていく。
大輝は家電小売店のムラタを第一希望にして同業種をあと2社、家電メーカーの営業職なども候補に決めた。
大学で勉強したことを活かしつつ人と関わる仕事がしたく、そして一般客にというよりは企業向けの営業など楽しそうでやってみたいと考えている。
真梨亜もそれを聞いて同業種をピックアップ、さらに地元の観光ホテルなども候補に入れて動き出した。
・
上旬、第一次選考の筆記試験…二人は難なく通過して、通知メールを貰ったその足で駅に近いファミレスへと出向きささやかなお祝いをした。
「まだこれからなのにね」
「いいじゃん、次は面接かな」
「明日くらいに通知来るかな……真梨亜さん、緊張する?」
「うん…あの、たぶん集団面接でしょ?あたし…その、目立つから…たぶん緊張しちゃう」
活動的な真梨亜にあっても物事の初めは大体そうなのだ。
文字通り異色な彼女には視線が集まり易いし、まず最初に日本語が話せるかどうかの確認作業が行われる。
「Can you speak Japanese?」とそれっぽい発音で尋ねられて「話せます」と流暢に答え角が立つこともしばしばだ。
履歴書やエントリーシートは手書き日本語なのでその辺りスムーズだとは思うが…なんにしても他の学生より印象に残り易いことは間違いないだろう。
「同じ日程なら一緒に居てあげられるんだけどな」
「うん…大輝くん、あの、あ、後で…その、」
「またヒゲ触る?どうぞ」
「う、うん…ごめんね、あの、変態みたいで、違うの、その……あ、安心、するの…」
最近のデートでは真梨亜は大輝の顎髭を頻繁に触るようになっており、朝と昼と夕方で変わるその触感にニコニコと目尻を下げている。
これはただのスキンシップと思いきやそれだけではなくて、ショリショリ触っていると不思議と心が落ち着いて彼女の顔つきも穏やかになっていくのだ。
初めこそこうして恥ずかしそうにお願いするものの、その日の最後くらいになると何も言わずペットを愛でるように短毛が倒れる感触を手の平と指全体で笑いながら味わっている。
「真梨亜さんのお父さんみたいかな」
「そうなのかな…」
確かに父・ティツィアーノも白髪混じりの髭を蓄えかつ無精に見えるように整えてダンディーさを演出している。
大輝のそれと質は違えど親しみや頼もしさを感じるのは刷り込まれた本能みたいなものなのかもしれない。
「……(くすぐったいな)」
頬や顎を触るのは手を繋ぐよりもっと性的な感じが匂って、大輝はこうもペタペタ撫でられると興奮せんこともない。
きっと真梨亜はそんなことはちっとも感じてないだろうし口にすれば意識してこの癒しタイムが取れなくなってしまう。
大輝としても真梨亜の心身が健康であることは望むべきこと、そして何にせよ自分が求められていることは喜ばしいことだった。
まるで赤ちゃんから見た母親の視界だな、うっとりはにかみながら優しく手を動かすその慈愛に満ちた顔はまさに聖母マリアといったところで。
大輝はマリア像なんて見たことは無いけれど、鼻息を最小限に抑えつつ彼女が納得するまでじぃと大人しく待った。
「ふー…ありがとう、元気貰っちゃった」
「いいよ、こんなの安いもんだよ」
「就活が終わったら…何かお礼させてね」
大輝の体温が僅かに移ったその手で彼の手をぎゅっと握れば持ち主は
「うん?うん…」
と頷く。
秋か、冬か、その頃には二人は正式なカップルになっていると信じて、真梨亜は愛しい大きな手の甲にちゅっと唇を付ける。
「ぅわあっ⁉︎」
「…失礼なreactionね」
「ごめん、だって」
「ここへのkissは尊敬と敬愛よ、お礼…じゃないけど、その…好きって、こと…憶えてて、あたし、大輝くんが好きよ、いつも助けてもらってる」
「それはありがとうだけど…わざわざこんな」
「…ドキドキしちゃったの、ごめんね!」
ファミレスの一角でこんなラブシーンはやはり端なかったか、真梨亜は真っ赤な顔でグラスを掴みドリンクバーへと席を立った。
「…参ったなぁ…」
就活に真梨亜に卒論にと考えることが沢山だ、大輝は紙のおしぼりで火照った顔表面を冷やしてからコーラの入ったグラスを一気に空にする。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる