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11章
49きゅん
しおりを挟む「おっとっと」
「あの、違う」
「はい、気を付けて…本性というかさ、強気なのと照れ屋なのと、でも緊張しちゃうこの真梨亜さんが実は多くを占めてるのかなって」
大輝は当初から真梨亜がグイグイ来るだけの性分だとは思っていない。
もちろん誰しも二面性という程でもない対極の感性や性格を持っていて当たり前だし不思議は無い。
大輝だってもじもじする時もあれば今のように堂々と真梨亜と肩を寄せ合ったりできるのだ。
その日の気分だったり周期があったり、性格には変化があって当然なのだ。
「……な…なんて言うの、内弁慶?あの…慣れたらすごい懐くって…友達には言われる…」
「そっか、まぁ誰しもそうだよね。…気を悪くしないでね、なんか『外国人』っていうイメージで動こうとしてるのかなって思う時があったんだ」
「……えー」
「だって初対面で欧米式の挨拶したじゃない?でもご両親のお店に行った時にそんな挨拶はしてなかった…飲食だから控えたにしてもね、家族間でも頻繁にはあの挨拶してないんじゃないかって…そう思った。あと考え方とか振る舞いが日本人だし、わざと…って言ったら変だけど、意識的に使い分けてるのかと思ったんだ」
図星を突かれて頭に入れてきた面接対策が抜けていきそう、真梨亜は苦々しい顔で
「……そう、よ…使い分けてる」
と白状してしまう。
「あ、そうなんだ」
「っ…仲良く…なりたかったの、手っ取り早く…体を許しちゃえば男の人は簡単に釣れるって、仲良くなれるって思ってたの、だから…kissしたの…か、軽い訳じゃない、mamaにも怒られた、自分を偽っちゃダメって」
「ふむふむ」
確かに勘違いしちゃいそうな触れ合いだったよ、童貞の自分には恐れ多いくらいにね…大輝はふぅと息をついて一旦腕時計を確認した。
「でも大輝くん、乗ってこないし返事も返って来ないし…だから大学に乗り込んで…い、偽ってるって言うなら大輝くんだって同じよ、女の子に慣れてないとか言うくせにlady firstできるし」
「偽ってないよ、僕は彼女出来たこと無いし、人には優しくって教えがあるから実践してるだけで」
「それをできてるんだから…優しくって…好きに…でも手ぇ出して来ないから…こっちから行くしかないじゃない」
だんだんとヒートアップして張り上がってくる真梨亜の声、上下階の会議室は予約されていなかったとは思うが吹き抜けの非常階段は音が大きく反響して内緒話には向きそうにない。
面接前にここまで心を乱してしまって申し訳ないな、この件に関しては場所を変えて話し合った方が良いか。
大輝が
「落ち着こうか」
と手でジェスチャーするも真梨亜の瞳が涙で潤み出したので強く出られない。
「ずるい、ずるい…あたしばっかりこんなドキドキして待たされて!」
「だから、他の人を探してって言ったんだよ」
「それがずるいの、好きなんだから!あたし大輝くんのこと好きなんだから…他の人なんて見れない、分かんない…」
ついに大きな涙の粒が俯いた真梨亜の目から溢れる。
大輝は反射的に手の平でそれを掬って彼女のスーツを守った。
「好きでいるのは構わない、こちらが告白するまで待てないなら翻意しても追わない」なんて柔軟なようで不誠実な宙ぶらりん状態に彼女のいっぱいいっぱいな心が悲鳴をあげる。
そして就活の緊張状態で溢れ、下手に優しくされたものだから爆発してしまう。
「この話は今することじゃないと思う」
「じゃあいつすんの…あたし、こんなんで面接行けないィ…ひグ」
「じゃあ…この面接が終わったら…きちんと伝えたい。僕の気持ち」
「…良い話?」
「…たぶん」
「たぶんって何ィ…フラれるんなら聞きたくないィ…ふェ~」
大輝には内密だが初恋なのだ。
面接を蹴ってしまうかもしれない程に心を動かされている相手にこんなに優しくされて玩ばれて正気でいられない。
会わずに控え室で待っていれば良かったんだ、けれど廊下で見つけてもらった時は体が跳ねるほどに嬉しかった。
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