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5章
19きゅん
しおりを挟む4月。
月最初の土曜日、前回と同じ甕倉市内の一番大きな公営体育館で合同企業説明会が催された。
大輝は今日もスーツを着て無難なブルー系統のネクタイを締めて、しかしハンカチだけはいつもよりお洒落というか機能性よりデザインを重視した物をポケットへ突っ込んでいる。
それはお手洗いの後だとか汗をかいたときであるとか、自分を好いてくれている女性の眼前で口を拭くときであるとか…そのような時に垣間見える出番を見越してのことだった。
例によって真梨亜は前日に彼へ連絡して待ち合わせの約束を取り付けている。
受付にて資料と記念品などが入った手提げ袋を貰いロビーで待機、大輝は
「レストランか…緊張するな」
と短く整えた爪の先で後ろ頭を掻く。
彼女の親の経営する店だと聞いてはいるがそれはつまり親御さんに面通りするということだ。
交際してもないのにそんなオーディションを受けさせられるなんてとんでもないな…大輝は本来のメインイベントである企業説明会のリーフレットを開くも、企業名はつるつると滑っては脳をスルーして頭上をふよふよ漂うだけだった。
「大輝くん!おはよう!」
「あ、真梨亜さん、おはよう」
大輝は真梨亜の『挨拶』に少し警戒するも彼女は軽く手を挙げるだけに留め、
「今日も頑張ろうね。数社回って、お昼に1回合流で良いかな?」
と良い女風に仕切る。
「うん、最初はどこにしようか」
「これ、地元の大手」
「オッケー……真梨亜さん、そのスーツ、サイズ合ってる?」
真梨亜のスーツ姿は改めて見ると前回のものと違いその体型に合っていなかった。
肩幅が広過ぎるしスカート丈も膝下で野暮ったくて、せっかくのスタイルを台無しにしていて勿体ない。
まじまじ見ては失礼だが明らかにオーバーサイズなのだ、大輝は事情でもあるのかと他意なく清らかな心で問うた。
「え、これ?……んー、合って…ないの」
「借り物とか?」
「ううん、mainで着てるやつに今朝coffeeこぼしちゃって…予備のなの…変かな」
「いや、明らかに肩の位置が違うし袖も長いし…そっか」
「お尻がね、大きいから…そこに合わせるとwaistと着丈が大きくなっちゃうの。jacketもそう、前が閉まらないから大きめで…恥ずかしい」
ブラウスだって張り詰めてボタンが必死に仕事をしているように見える。
体型の事情だと思っていなかった大輝は
「ごめん」
と赤面して返す。
「(照れ隠しに饒舌になっちゃった…)tailormadeならこうはならないんだけど…えへ」
「そっか…僕も、胸板で測ると号数は上がるなぁ…特注できればカッコいいけどリクルートスーツにそこまでできないんだよね」
「厚いもんね…」
できればもう一度触れてみたい、真梨亜は横目で大輝のスーツの胸を確認してから目的の企業ブースへと入った。
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