上 下
12 / 92
3章

12きゅん

しおりを挟む

「真梨亜さん、こっち、」

大輝は通路代わりに食堂を突っ切って扉から外へ出て、石畳の階段へと腰を下ろす。

 まだ日が真上にあるので食堂棟の影は人1人分しかできていなくて、大輝は日向ひなたに座り「どうぞ」と真梨亜を日陰へ座るよううながした。

「あ、うん……大輝くん、眩しくない?」

「そのうちここも影になるよ。春休みでなけりゃ空き教室見つけて入るんだけど…汚すと悪いしね…いただきます」

「ありがと…いただきます」

ツナとタマゴのサンドイッチをちびちび齧り、真梨亜は大輝の顔色を窺っては目線をあちらこちらに泳がせる。

「(…大人しいな…)」

大輝としてはメールの返信が無いことについてもっと強く詰められるのかと思っていたので少し拍子抜けだった。

「(まぁいいか)」

 ポテトサラダをひと口、卵焼きをひと口、たらこマヨネーズをちくわ天にまぶしてひと口。

 もっしゃもっしゃと咀嚼そしゃくする様子を真梨亜は始めは横目で、次第にまじまじと見つめるようになる。

 海苔の付いたご飯をひと口、唐揚げをひと口。

 ついに真梨亜の手と口が止まったので大輝は彼女へ顔を向けて

「なに?」

と尋ねた。

「あ、あの…美味しそうに食べるから…見惚れちゃった」

「は?いつもこんなだけど」

「ひと口が大きくてwildワイルドね、クマさんみたい」

「クマ」

まぁ『熊五郎』とか言われたことはあるよ、大輝は水筒を取り出して麦茶をあおる。


「ぷは…それで…僕を…探しに来たの?」

「うん」

「何のアテも無く?無謀過ぎない?」

「誰かに聞けば良いかなって…」

「…緊張、しなかった?」

「したよ、初めての場所だから…でも…会いたくて…」

「それで?何か情報はあった?」

「何にも…さっきのお店の外に居た人達にも聞いたんだけど分からなくて…鬼mailメールしようかと思ってたことろだったの」

 上目遣いしながらパンに齧り付くその唇の形が可愛くて、大輝は早くもほだされかかっていた。

 そもそも返事をせずに会話を一方的に終わらせた自分の落ち度だ。

 ビビりの性格を我慢してまで乗り込んで来た彼女の勇姿にきゅんと父性のようなものがうずく。

「メールは…ごめん、あの後寝ちゃって…返事は忘れてた」

「そうなんだ、……無視されたのかなって…思って…寂しかったの」

「(良心が痛むな…)」

無視して自然消滅を図ったなんて言えばこの子は激しく怒るのだろう。

 嘘は苦手だが平和主義の大輝はともかく穏やかに昼食を済ませたいと箸を動かした。

「あの、あたしの連絡先、渡したのは学校配布のやつなんだけど、こ、個人のaddressアドレス…それかchatチャットappエァップで連絡できない?」

「エア…あ、アプリ?良いけど……これ、登録して」

 本場の発音に気を取られた大輝は理解が追い付くと箸を置いた。

 そしてスマートフォンのチャットアプリを開いて『友達登録』メニューを展開し真梨亜へ手渡す。

「ありがと…」

彼女はパン屑が付かないよう手を服で払ってからスマートフォンを受け取り、ダメージジーンズの膝へと載せた。

 そしてポチポチと指を動かして自分のスマートフォンでも作業して、ピロリンと電子音が鳴ると目尻を下げて微笑む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...