真梨亜さんは男の趣味が残念だ

茜琉ぴーたん

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1章

1きゅん

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 就職活動に関する情報が解禁された大学3年生の春休み…今泉いまいずみ大輝たいきは入学式に着て以来仕舞ってあったリクルートスーツを身に纏い、市内の大型体育館へと足を踏み入れていた。

 本日ここで行われるのは地元を含め全国展開の大手企業も参加する合同説明会で、選考開始までに少しでも情報を仕入れようと馳せ参じた次第である。

 候補に入れているのはコンピュータ関係か建築辺り、しかしこのご時世だから正規雇用であれば何でも良いかな、などとまだ気軽に構えていた。


「(コンピュータ開発…販売…飛び込み営業は難しそうだな…量販店なら僕でも…うーん)」

 大輝は正直言ってイケメンではない。

 それどころか世代ひと昔前の、よく言われるのは『昭和顔』…つまりは古臭いというか今の価値観で測るところのダサい顔つきをしているらしい。

 太い眉にのっぺりした一重の目、剛毛の短髪で髭も濃い。

 柔道を嗜んでいたのでがっちりしているし身長も177センチで高めなのだが、体に対して顔が大きいというか、頭身バランスがなんだかキャラクターチックなのだ。

 性格は明るく友人も多くて、しかしできればオフィスや工場で製品と向き合うような手堅い仕事が良いな、と漠然と考えている。


「(ムラタ…家電屋かぁ…売るんならパソコン専門店とどっちがいいかな…ん?)」

「…!…、……、どういうつもり?学生だからってこういう時はきちんとして来るのが礼儀でしょう」

 大輝が家電小売大手ムラタのブースへ歩いていると、横から甲高い女性の声が聞こえて来た。

 声の主はとある企業の従業員だろうスーツのミセスで、話し相手は同じく女性…彼と同じく説明会を聞きに来たであろう女学生である。


 彼女の髪色は明るいミルクティー色、なるほどそれを指されてるのかと小さくなった背中につい目を奪われた。

「(派手な学生が叱られてるのかな…ここまで金髪じゃないにしても似たような人はたくさん居るのに…態度が悪いのかな?)」

 くどくどと社会人の何たるかを説かれる女学生は俯いてコクコクと頷いて、可哀想に行き交いする者が皆好奇の目で眺めては止めもせずに過ぎて行く。

「……」

 人が怒られているのは見ていて気分の良いものではない。

 大輝は余計なお世話と思いながらも、仲裁に入ろうと決めてミセスと女学生の間へ片手を差し入れた。

「あのー、ここら辺でやめませんか。そちらのブースの方々も開始を待ってるみたいですし」

「なんなんです、貴方…この方のお友達?」
 
 ミセスは大柄な大輝の登場に少し圧倒されたようだったが怯まず、パイプ椅子に掛ける学生たちもこちらを心配そうに見つめるばかりだ。

 誰も止めないところを見るとこの女学生が叱られて当たり前の悪事を働いたのだろうか。

 けど勘違いでもいいやと大輝は己の正義を信じてミセスを丸め込む。

「え、あー…はい、そんな感じです。何をしたのか知りませんけど、そんなに怒らなくてもね、あのー、」

 女学生の方へ振り返るも顔を伏せたままで表情は見えない。

 耳の上に白い紐が見えるからマスクを着けているのだろう。

 体調が悪いのかもしれない、もしかして泣いているのかな、大輝は彼女の手を引いて

「あの、とにかくすみませんでした‼︎」

とロビーへ退避した。

 小さな手、大輝と比べればそれは当然なのだが細くて体温が低くて、僅かだが震えている。

 大股で歩く大輝に女学生はパンプスの脚でついて来て、自動販売機の前で止まった時には少し息が切れているようだった。
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