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 茉莉花は夕飯前には帰宅して、俺の分もいつも通り用意してくれた。

 でも食卓は殺伐とした空気で、そうしたのは誰でもない俺のせいなんだが居た堪れなかった。





「風呂どうぞ…茉莉花、あの」

「空くん、しばらく別々に寝よう。私はこっちリビングで良いから」

風呂上がり、茉莉花は飾り気の無い素顔で俺にそう告げる。

 隣に寝る気にはならないよな、でも妊婦をソファーでねかせる訳にはいかない。

「茉莉花は寝室で寝て。俺がソファーで寝るから」

「…良いの?」

「当たり前だろ。体は大切にしなきゃ」

 疑った俺が言うことの白々しさよ。

 きっと茉莉花だって薄ら寒く感じているに違いない。


 彼女が外出している間に俺も色々と考えたが、独りでは何もまとまらなかった。

 信頼していた俺の発言によって失望させてしまったし、俺はこのまま捨てられる可能性が高い。

 信じ切れなかった俺の弱さが原因だ。

 何にせよ愛する茉莉花の子供なんだから喜ぶべきだったのに…出来なかった。


「…空くん、来週の火曜が休みだから産婦人科に行って来る。母子手帳の手続きしたり…会社に相談したりしなきゃいけないから」

「うん…」

「だから、それまでに……決めて欲しいの。私とどうするか」

「……茉莉花、」

 俺とどうなろうと産む気なんだな、もう茉莉花は母としての気概ができている。

 俺はといえば形ばかりカッコつけるだけ、茉莉花をいたわる自分に酔っているだけだ。


 浮気されて元カノたちと別れて、俺はずっと被害者意識ばかり大きくなっていたんだと思う。

 茉莉花の誠実さを試して、自分が上から審査するような偉そうなことをしていた。

 小さい人間がいよいよ見切りを付けられるんだ。


「分かった、茉莉花の考えを尊重するよ」

と寝る支度に入った。
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