清純派彼女には秘密なんて無い、よね?

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
37 / 59
3

30

しおりを挟む

 そろそろ茉莉花の終業時間という頃。

『ありがとう♡駅で待ち合わせなんて久しぶりだね♡これから出るね♡♡』

とハートいっぱいのメッセージが返って来た。

 ニカイドーから駅までは徒歩にして3分くらいか、会計して喫茶店を出る。


 同棲する前のデートでは駅で待ち合わせもよくしたものだ、懐かしくてついニヤニヤしてしまう。

 「お待たせ」と改札を走って抜けて来る茉莉花の可愛いこと。

 あの時俺は予定より早く着いていたのに「俺も今来たとこだから」なんて嘘をついた。

 惚れたら負けだと思っていたんだ、浮気女に連続で引っかかった俺は純朴な茉莉花にさえ警戒を怠らなかった。

 でも実際健気で可愛いし一途だし初彼氏だったし、俺が与える数倍の愛を返してくれたからどっぷり惚れ込んでしまった訳だが。


「(俺の方が今や執着してる感じするなぁ…これが愛なのか?)」

 あのマカロン男も、本当に純粋な気持ちで茉莉花にアタックしているのかもしれない。

 指輪なんてしてないし、恋人がいるかどうかも奴から決定的な告白でも無けりゃ茉莉花も公開するタイミングが無いだろうし。

 もしくはただ単純に好みの女性とのトークを楽しみたいだけという線もあるか。

 配偶者がいようとも異性と話をするのは新鮮で胸が高鳴るものだろう。


 ただ、マカロン男はTPOをわきまえなかったのがいけないのだ。

 いかに茉莉花が好みであろうとも、彼女の戦場であるカウンターに浮ついた気持ちで踏み込みダラダラ居続けたのがいけなかった。

 次の機会があればまた今日のように圧をかけてやろう。


 そんなことを考えていると、ニカイドーと反対の駅前バス停横から石床を叩く音が近付いて来る。

 反射的に顔を向ければ、それは通勤着の茉莉花の駆け足の音だった。


「…茉莉…ん?何であっちから?」

 パンプスで走る茉莉花は遠目で俺を確認すると、むんと険しい顔になり駅舎の方を指差す。

 行けということか、もちろんこれから電車に乗るから行くけども。

 戸惑っていると茉莉花は俺の前を通り過ぎて先に駅舎へと入ってしまった。

「え?待っ…」


 急いで俺も改札を抜けて、自宅方面行きの車両へと乗り込む。

 ホーム階段から一番近い車両に茉莉花はおらず、連絡するべとスマートフォンを取り出せば『2両目だから』とメッセージが届いた。

 揺らしたし買った惣菜が汁漏れしてないと良いけど、などと心配をしつつ車両間を移動してみれば、当該車両に確かに茉莉花は居た。


「茉莉花、どうした」

「…空くん、尾けられてない?」

「…誰に」

「あのマカロンの人、従業員出口の所で待ち伏せされてたの」

 なるほどだから走ったのか。

 しかしいよいよ犯罪色が強くなって来て恐くなってしまう。

「何かされたのか⁉︎」

「ううん、でも薄暗い中にいきなり声掛けられてびっくりしちゃった」

「さ、触られたりとか」

「してないよ、でもほら、これ」

マカロン男からの次なるプレゼントだろうか。

 茉莉花の手には見慣れないかっちりした紙袋が下がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

からかう

詩織
恋愛
同期で好きな彼にいつもちょっかいを出されてた。はじめはそんな関係も嫌いじゃなかったが…

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...