清純派彼女には秘密なんて無い、よね?

茜琉ぴーたん

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「(……長いな)」

 茉莉花は特別長風呂というほどでもないと思うのだが、今夜の彼女はなかなか上がって来やしない。

 ちなみに俺が待っているのはリビングで、ここで合流してから手を繋ぎ寝室へ向かうのがルーティーンとなっている。


 ようやくドライヤーの音が響いて来たので今か今かと待ち構えるも、これもいつもより長く掛かっている気がする。

 さては乾かしながら倒れでもしたのか。

 覗きは絶対悪なので静かに廊下を進んで脱衣所を窺うも、何故かそこに茉莉花の姿は無かった。

「え?」

 洗濯機の上でそよそよと弱音を立てるドライヤーがあるだけ、まるで神隠しみたいに茉莉花が消えている。


「……出てったのか?」

 うちの玄関は重い金属製で、鍵の開閉時にはガチャンと大きな音がする。

 しかしその気配は無かったし、突き当たりの玄関に目を凝らせばサムターンは施錠のまま変わっていない。

 二人在宅時には必ず使うチェーンだって掛けたまま、つまりは茉莉花はこの家のどこかにまだ居るのだ。


「……」

 マンションだし部屋数は知れている。

 あと調べてないのは寝室とトイレと物置代わりの空き部屋くらいか。

 ベランダなどからの侵入者の線もゼロではないと思った俺は、ドライヤーはそのままにして足音の立つスリッパを脱いで手に構えた。

 情けない二刀流だが無いよりマシだ。

 不審者が茉莉花を人質にしているとしたら強い武器で下手に刺激しても良くないだろうし。

「(いや、茉莉花しかこの家に居ないと思うけどさ…)」

 包丁なんか持って茉莉花を脅かしても良くない。

 最低限の護身だけ考えてひたひた寝室へ歩いた。
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