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しおりを挟むちょっとした違和感に気付いたのは偶然、休日に探し物をしていてリビングのとある引き出しを開けた時だった。
「あれ、」
馴染みのある箱に印字された数字に抱くそれは俺の勘違いではなかった。
「おかしいな」
俺は鈴川空・26歳独身。
家電量販店の営業だ。
そしてまじまじ見つめているのは何の箱かといえば、男性用避妊具のパッケージである。
以前目にした使用期限が今手にしているものと明らかに異なるので、狐に摘まれたように考え込みしばし固まっている。
何故って前回これを買ってこの引き出しに収めた時、使用期限の年と月がゾロ目になっていて印象深かったから憶えていたのだ。
22年2月を期限とするそれがどうしたことか。
23年1月までの製品にすり替わっている。
「ゴム、買い替えたっけ…?」
俺はふむと思考を少し前にワープさせて思い出を探るも、あのゾロ目の箱以降に自身でスキンを買い替えた覚えが全く無かった。
正確には買い足して未開封のストックはあるのだが、使い終わった空箱を展開してゴミ箱に放った覚えが無いのだ。
このすり替えを行えるとしたら俺自身か同棲相手、あるいは顔も知らない泥棒か。
そこですぐ下の引き出しを確認してみたが、折を見て入金しようと数ヶ月放っておいてある現金5万円は手付かずで残されていた。
だとすれば窃盗目的の泥棒ではない。
避妊具を新しいものに交換してくれる奇特な泥棒がいれば話は別だが…そんな者はいないだろう。
第一、ゾロ目の避妊具だって使用期限まではまだまだ日があったのだ。
今は21年5月だし冷暗所だし品質に問題は無かろう。
「とすると茉莉花か…?」
矢作茉莉花は俺と同い年の26歳、地元の大手デパートで美容部員として化粧品を売っている。
合コンで出逢い意気投合、すぐに同棲を始めて1年ほどになる。
清楚でおっとりしていて癒し系、けれど意思を曲げない強いところなんかもあるしっかり者だ。
美容部員だけあって見た目のケアは徹底していて、髪も肌も常に万全の状態を保っている。
「でもなぁ、」
自分の部屋の持ち物に変化があったとしてまず一番に疑うべきは同居人だと思うのだが、茉莉花に関してはその線は薄いと感じた。
その対象物が避妊具ならばそれを使用しての浮気疑惑も持ち上がる。
けれど茉莉花はまず浮気はしないと思う。
これは身内贔屓とか恋人を信じてるからとか上辺の理由ではない。
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