わかりあえない、わかれたい・14

何を言い出すの…

12（最終話）

「お父さんみたいな良い人、どこかにいないかなぁ、亭主関白じゃなくてさ、優しい人」

　食器をシンクへ片付けながらそんなことを母へこぼせば、

「あの人も年々、角が取れて丸くなったのよ。最初は良いところ見せようとカラ回ってたもんよ」

とこっそり教えてくれた。

「そうなの？」

「結婚当初は『俺について来い！家事はお前の仕事だ！』ってな感じだったわよ？あんたの元カレほどじゃなかったけど、亭主関白に憧れてたみたい」

「へぇ…変わったんだ」

「変えたのよ、『自分の家事と炊事くらい自分で出来なくて何が大人だ！』って、あんたがお腹に居た頃にね、意見して…そしたら少しずつ横柄さは無くなったわね。元々が優しい人ではあったんだけど…家族を養うっていう重責もあったからね、自分を大きく見せたかったみたい」

　時代的にもそれが当たり前だったのかな、そういえば幼い頃の父はもっと厳しい顔をしていたようにも思う。

　もしかして元カレも調教次第では優しい夫になっていたのかも、しかし具体的に考える前にやめた。

　鍛え直したところで、あんな威張った姿を見せられると駄目だ。

　結婚しただけで女を下に見るような男とはやっていけない。


「もっと、人を見てから身を固めるわ」

「それが良いわよ…世の中広いんだし…あら、お父さん、何してるの」

　酔った父がフラフラと、台所に来てゴミ袋を１枚持ち出す。

「処分だよ、処分！うちにあんな男の成分は要らねぇんだわ」

　危ないので後を追いかけると、父は書斎のシュレッダーのゴミをポリ袋に移していた。

「手伝うよ」

「おお、サンキュー」

　パラパラドサドサと舞う紙片、元々のゴミと混じってしまいもうどれが婚姻届かなんて分からない。

　床に溢れた分も指で摘んで拾い集めて、

「ふん！」

と父が力を入れて封をした。

「お母さんに聞いたけど、お父さんも最初は亭主関白気取ってたんだって？」

「…男はそういうもんだと思ってたからね。でも途中から考え直したよ、好きで一緒になった母さんを笑顔でいさせられないのは情けないことだって分かったし…黒歴史だね…横暴にしたつもりは無いけど、色々と履き違えてたんだ」

「そっか」

　もうこれ以上掘り下げるのは父が可哀想だろう。

　いつまでも被害者ぶっていても仕方ないし、前を向くことにする。


「私、表に出して来るよ」

　ゴミ袋を受け取り、玄関の石段の上に置く。

　ゴミの日は数日先だが、父の言う通り嫌な成分を屋根の下に置いておくのは嫌だった。


「バイバーイ」

　最後は陽気に、でも吐き捨てるように呟いた。

　未来のビジョンはまた新しく作れば良い。

　明日からのバタつく生活に覚悟を決めて、夜空とゴミに背を向けるのだった。



おわり