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しおりを挟む暖かい部屋でモニターの音量を最低まで落とし、適当に食事と飲み物を頼んで話を始めるも太獅はなかなか口を開けない。
「んで?なんやの?話って」
「いや、その…恥ずかしい話なんやけど…」
「あんたに『恥』なんて概念があんの?なに」
どうせ下の話だろう、マリは鼻で笑って仰け反り足を組んだ。
「…マリちゃん、実は俺な、その、た、勃たんくなっ」
「失礼しまーす、お待たせしましたー、山盛りポテトフライとミックスバスケット、コーラとジンジャーエールになりまーす!ごゆっくりお楽しみくださーい!」
「………」
決死の告白は食事を届けてくれた店員の声に掻き消され、耳まで真っ赤な太獅は唇を震わせてコーラのストローに吸い付く。
「……うま……マリちゃん、あの、」
「もっぺん言うて?聞こえへんかったわ」
マリはモニターの音量をミュートにして、前のめりに聞く体制に入った。
「いや…しやから、た、勃たへんねん…」
「は?あんたが?嘘やん」
「ほんま…全然よ…しやから浮気もでけへん」
マリは別れたつもりなのだから、もはや自由恋愛でよろしいやんとしか思わなかったが、黙っていた。
「はぁ…病院で治療したら?」
「マリちゃん…ちょっと触ってみて?」
「アホか…ほら、食べや、しゃんと食べな…勃つもんも勃たんようになるよ」
促された太獅はフライドチキンを手に取り噛り付き、
「美味い……マリちゃんとのご飯が一番や…」
と涙ぐんで漏らす。
そのなんでもない幸せに気付かず信頼関係を疎かにしたのは自分だろうに。
マリは口をへの字に曲げて揚げ物をがっつく男をしばらく眺めていた。
「太ちゃん、分かったやろ?恋人が他の人とエッチしてさ、それを知らされるって…ショックやろ?」
「ん…マジで死にそうになった…」
ほとんどひとりで平らげた太獅は唇の油を拭い、バツが悪そうに頭をポリポリと掻いた。
「私はあんたに縋り付いてまで引き留めはせんけどさ、逆の立場やったらあんた、ここまで情けなく縋るやんか、」
「そらマリちゃんが好きやから…」
「私かて太ちゃんが好きやったよ、しやから何回も別れたし何回も許してもうた」
好きだから許せない、好きだから縋る、想いの大きさは同じはずなのにこんなにもすれ違う。
「大学行ってモテだして…向こうから声かけられて…さっぱりしたマリちゃんが嫉妬してくれて、そっから癖になってもうて…いや、単純にエロいことが好きなんやけど…マリちゃんにはできんようなこと、他の女とはシててんな、だってマリちゃんにフェラなんかさせられへんやろ?……マリちゃんが俺に怒ったりするんが見とうて…悪かった…身に染みた…耐えられへん、俺のマリちゃんが…俺以外のちんこ挿れられたとか…俺以外と仲良うするとか…耐えられへん…すまんかった、ほんまに…耐えられへん…」
「今さらや…あと相手のこと『女』って言うのええ加減辞めや?失礼やんか」
「なぁ、何べんサれた?フェラは?どこ触られてん?な、中出しとかしてへんよな?」
会話が続く、これはほぼ復縁とみて良いのか、太獅は聞きたかったことを矢継ぎ早に質問する。
「た、体位は?俺もしてへんような変なことサれてへんか?叩かれたりは?痛いこと…嫌なことサれてへんか⁉︎」
「ないよ、普通の…正常位と…後ろから」
「2へんも…」
勃たなくなった今の自分にはとてつもない数字、なんせ自慰行為ですら半月もできていないのだ。
「あと騎乗位」
「さ、3発もシてん⁉︎オッサンのくせに…マリちゃんの騎乗位…お、俺かてしてへんのに…」
「あんたが『デブやから乗るな』言うたからしてへんだけや」
摘むものが無くなったマリは、口寂しそうにストローを喰む。
「冗談や…マリちゃんはデブちゃうよ…」
「好きな子を悪く言うんが許されるんは小学生までやで」
「メンタルがそこで止まってんねん…マリちゃん…俺もシたい、乗って、騎乗位でエッチしよ、」
もうこれは復縁したのだろう?太獅はにわかに活気付き増長した。
「嫌や。乗ったら『デブ』とか『重い』とか言うやん。大体勃たへんねやろ?」
「言うかもしれんけど……愛情表現やんか…あ…想像したら勃ってきた…」
「よかったやん、ひとりエッチでもシたら?」
ジンジャーエールを飲みきり、マリのストローがズゴゴと氷に吸い付く。
あくまで他人事、元気なのは宜しいが相手は自分ではない…まだこれくらいでは絆されてはいけない。
「マリちゃんとシたいねん、な、オッサンとエッチして気持ち良かったか?イけたか?」
「んー…普通…?私はあんたしか知らんから比較もでけへんけど…イけはせんかったけど、相手は満足気やったから普通やったと思うよ」
「なんやそれ…マリちゃんをイかさな意味ないやんか…マリちゃん、セフレでもええから…エッチしよ、」
「最低な誘い文句やな」
頼政のセックスは事務的で享楽しか感じなかった、きっと太獅に性欲のはけ口にされた女性たちも同じようなことを感じていたのではないだろうか。
気持ちはいいけどそれだけ、慈しむようなセックスを知っているだけに安い快感だけでは満足できない。
太獅はマリの隣に移動して素早く肩を抱き、そのしっくりくる感触に久方ぶりの感覚が込み上がってくるのを感じた。
「お願い、定期的に…エッチしたい、俺のこと嫌いでもええから…お金払ってもいいわ、悪いようにはせぇへん、マリちゃんが気持ち良くなるようにシたげるから…マリちゃん、あ、ほら…ギンギンや…」
「その調子でナンパしてきたら?」
「なんでや、もう、マリちゃん、触って…ん♡な?硬いやろ?あかんならマリちゃんの手で抜いてほしい…」
マリの手首を掴んで股間に当てがえば、甲にみちみちと滾る肉の盛り上がりが触れる。
「嫌やん…きっしょ………あんた…もう許されてる思てんの?」
「思うてへん、チャンスをくれ、絶対損はさせへん、気持ち良く…マリちゃんが気持ちいいようにしたる、な、」
彼女の顔を覗き込めば目線は逸らされ、しかし
「ここでちゃう、……せめてホテルやろ」
とYESサインが出たので太獅は彼女の体をぎゅうと抱き締めた。
「行こ、すぐ…あ、治らへん、マリちゃん見て、テント、あ、暴発しそう、」
「会計行くで」
マリは一度もスイッチを入れなかったマイクのカゴを持って先に部屋を出る。
「待って、立たれへん…痛い、あ♡」
パンツで先が擦れた拍子に結局ダムは決壊。
太獅は数年ぶりの夢精に似た感覚を味わい、ちょこちょこと小股で移動してジーンズに染みる前に暗い駐車場へと移動した。
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