68 / 85
episode:11…本当はね
68
しおりを挟む「上京して寂しくて辛くてもさ、『珠ちゃんはもっと辛いんだ』って思えばボクはまだマシだな、って堪えることができたんだ」
「は?」
「珠ちゃんが慣れない生活に疲れることは予測できてたんだ、ボクに助けを求めることも…案外強情だったから死ぬ前にこっちから助けに行ったけどさ。専門学校でさえ悪戦苦闘してる珠ちゃんがいれば有名大学で課題に頭を悩ませるくらい何でもないなって…下には下がいるって言うのかな、まだマシだなって思って頑張れた」
「……クソかよ」
献身的な介助かと思えば全く違った。
篤人は心理学で言うところの『下方比較』をして自分のモチベーションを上げていたらしい。
比べるまでもなく私より篤人の方が何かと優れているにも関わらず、だ。
「珠ちゃんが小学生の頃ボクを助けてくれたのと同じ、ボクは珠ちゃんを助けることで悦に入ってたんだよ」
「変態クソ野郎だな」
「でも種明かししちゃったからね、嫌われちゃうかな」
「……」
お茶を飲んでチラッとこちらを窺う自信たっぷりなその眼差し、どんな時だって良い顔してやがんなぁと悔しさを超えた詠嘆のため息が漏れる。
そして私から嫌われるなんて毛ほども予想しちゃいないのだろう、置いていたカップサラダのフォークを持ってサクサクとレタスを喰む。
本心から私を救おうと動いてくれたのだと信じていたが違ったようだ。
つくづく私は篤人を御しきれてないし綺麗事の少年漫画脳だったなと恥ずかしく思う。
「珠ちゃん?」
「…篤人が私より上に立ってるのは今に始まったことじゃねぇしな…助けてくれたのは事実だし…悔しいけど嫌いにはなれねぇな」
「…そう」
「これでお互い様ってことだな」
これは嘘だ、チャチな虐めから助けるのとは訳が違うのに…恩を受け過ぎているのに返せる見込みも無い。
余剰分の督促を恐れた私はそれで丸め込んだ。
「そうだね…でもボクが恋人であることで得られる珠ちゃんの利益の方が勝ってると思わない?」
「何で?私、篤人がイケメンであることはあんまり重視してねぇよ」
「あっそう……ふふ、そういうとこも好きなんだ…ねぇ、食べたらエッチしようね」
「好きだねぇ」
「珠ちゃんだからね」
「ふん」
知ってるわ、篤人の愛を過信したくなくてその台詞はぐっと飲み込んだ。
Continue to the next episode…|
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。


【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。
華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。
嫌な予感がした、、、、
皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう?
指導係、教育係編Part1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる