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episode:8…足りない熱量
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しおりを挟む『珠ちゃん、今日は楽しかったね。何か困ったこととかあれば言ってね。駆け付けるからね』
「……電車でも40分掛かんのに…駆け付けられんのかぁ…口だけなら何とでも言えるわなぁ…」
その夜送られてきた篤人からのメッセージにクダを巻く、上京1ヶ月で私は相当やさぐれてしまっていた。
慣れない都会の空気に陰キャが気圧されてるというか、水が合わないというか、初めての独り暮らしでテンパることだらけというか。
テレビ相手に文句を言ったり鍋を焦がしたり寝過ごしたり公共交通機関の乗り方がわからなかったり、今の私の精神状態は正直よろしくない。
強気で親を説得して出て来たはいいもののまさかのホームシック、狭いワンルームは缶詰みたいで息も詰まる。
長閑な田園風景広がる地元へ帰りたくなった。
篤人も同じかと思いきや奴は予想外に街に馴染んでいて軽く髪も染めてやがった、きっと大学でもモテ始めているに違いない。
この劣等感は今に始まったことじゃないけれど生まれ持ったエンジンの性能が違うというのは狡っこい気がする。
奴はなんだかんだ社交性もあるし気が利くから周りに人が集まるのだ。
東京に出ると決めたのは自分でありそこに篤人が合わせてきた訳だけど、私はどこか「篤人がついて来る」という思いがあった。
私の方が選択権があり先を歩いている、そう思い込んでいたのだが、蓋を開けてみれば私は圧倒的に篤人に置いて行かれていた。
ビジュアルや学力なんてのは当たり前だ。
でも環境への順応力まで負けているとは思っていなくて…私を置いて都会人になっていく奴への寂しさがホームシックに拍車を掛けたのだ。
今回のデートも自分なりに勇気を出したがやはり篤人は輝いていた。
道行く人が振り返ったり黄色い声をあげているのも聞こえた。
そして私を見て「あれが彼女?」なんてお節介も聞こえてきて…余計に惨めだった。
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