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episode:2…格差
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しおりを挟む街へ出て友人と遊んだらあのやり取りのことはすっかり忘れてしまって、篤人のことを思い出したのは帰宅して晩御飯を食べて風呂上がりに携帯電話のメール着信音が鳴った時だった。
『土曜日とか会えないかな』
誰かと送信先を間違えてないか?率直にそう思った私は
『いいけどなんで?』
と用件を尋ねる。
昔話がしたいと言われればそれでも良し、久々のゲームでも漫画の話でもそれはそれで良いと思った。
しかし
『恋愛相談とか』
と返って来ていよいよ事態はきな臭くなる。
彼氏居ない歴と年齢がイコールの女に何を相談するというのか。
ただ惚気るだけならメールかその辺の石にでもしておけばいい。
天上人のいちゃラブな話なんか歯が浮くどころか「爆ぜろ」と罵って唾でも吐いてしまいそうだ。
何か思惑があるんじゃないのか、待ち合わせに行ったらリア充の集団に囲まれて「デブが来たぜ」と罵倒されたり罰ゲーム的な踊りとかやらされたり。
ネガティブ思考はぐるぐるとあらゆる悲惨な結果の可能性を弾き出しては、最終的に指を『だが断る』と操った。
『どうして?小学校の校庭の二宮金次郎像の所、あそこで話そうよ』
『罰ゲームで変な遊びでもやらされてんのか』
『ゲームはしてないよ。何の話?』
『リア充何人連れて来るつもりだ』
『ぼくひとりだよ。珠ちゃん、ゲーム大会とかするつもり?何かソフト持って行こうか、ハードは今何使ってる?』
「……」
あんまり警戒することもないのかな、顔が見えないとこれらのメールは昔の篤人が喋っているように脳内再生されてそれほど危険でもないように思えてくる。
『ゲームはさておき。じゃあいいよ』
『なら11時に集合ね。お昼ご飯持って来てね』
『おけ』
なんだか長丁場みたいだ。
私は普段使いのリュックに護身用の断ちバサミを入れかけて「いやいや」と思い直した。
理由なく持ち歩いては捕まってしまう、しかし何かあったら困るのでリュックごと振り回して鈍器になるように分厚い英和辞書を底に敷いてから財布を収める。
我ながら発想が陰の者で恥ずかしい、こんな対策をしたところでいざ非常事態になれば思い通り俊敏に動けるはずなどないのに。
しかし備えあって憂いなしと言うし、絆創膏とポケット裁縫セットもリュックに同封した。
「何があるか分かんねぇしな」
例えば平凡な自分が政府より人類の救世主に選ばれて地球外生命体と闘わなきゃいけないとかそんな突飛でフィクションな発想、ほんの少しだけワクワクしているのは篤人が昔から変わってない部分もあると知れたからだろうか。
しかし最悪のパターンにも備えるのが吉、仲間連れで囲まれて笑われたりしたらやはり悲しいのでいつもより身だしなみは整えることにした。
顔の産毛と眉毛と歯磨きもしっかりして、「デートでもあるまいし」と鏡を見ては時折我に返る。
ともあれ「休日にイケメン男子に呼び出されて出掛ける」という事象には価値があるのだ。
これは経験としてありがたく納めさせていただこうと思う。
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