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一体なんの冗談だ
一体なんの冗談だ20
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たった一人の麻那という存在が、こんなにも類沢の中で大きいのは、彼だけじゃなくて街を揺り動かすことになるんじゃないかって。
会いたい。
その願いは単純で理屈的。
でも、叶えられてはいけない気がする。
俺はそっと目を閉じた。
幼い類沢を抱きしめる女性が脳裏にはっきり現れる。
明るい陽射しの仲、秘密の花壇で。
太陽の光を浴びて微笑んで語り合う。
ふと、彼が離れた時。
俺の方を見た彼女は、こう言った気がした。
その場所は、貴方にふさわしいのかしら。
急いで眼を開ける。
「瑞希、大丈夫?」
俺は汗をかいて横たわっていた。
カーテンの隙間から陽光が差し込み、いつの間にか起き上った類沢が心配そうに髪を掻き分けてくれる。
「俺……寝てました?」
夢という感覚とは違った。
もっと、こう、現実味があった。
「二時間くらいね。悪夢でも見てるんじゃないかって苦しい顔してたよ」
彼女の声が、今も耳にこびりついている。
「あ……うなされてました? 迷惑かけてすみません」
サイドテーブルに置いてあった冷水の入ったグラスを渡される。
ひんやりとした感触に意識が鮮明になってくる。
それから、彼女の姿が薄れる。
ゆっくりと水を飲み下し、深呼吸をした。
「寝る前にあんな話したからかな」
「ち、違いますっ! 俺が勝手に考えすぎたから」
そうだ。
なんでだってくらいに。
ぐるぐる。
俺がここにいる理由を考えてた時以上に。
混乱と、眩暈。
パンッ。
目の前で合わさった掌に瞬きをする。
「考えるなって言ったよね」
手を叩いたらしい。
類沢は真剣な眼をしていた。
「はい……すみません」
それでも曇った顔のままの俺を見下ろす。
ため息一つ。
「店が開くまでまだあるから、ドライブでもしよう」
「えっ」
尋ね返す前に、もうリビングに背中は消えて行った。
「気……遣わせてどうする。俺」
口に手を当てて、ボフンとベッドにうずくまる。
でも、起きなきゃ。
またうだうだ考えてしまう。
俺は五時を示す時計を眺めて立ち上がった。
会いたい。
その願いは単純で理屈的。
でも、叶えられてはいけない気がする。
俺はそっと目を閉じた。
幼い類沢を抱きしめる女性が脳裏にはっきり現れる。
明るい陽射しの仲、秘密の花壇で。
太陽の光を浴びて微笑んで語り合う。
ふと、彼が離れた時。
俺の方を見た彼女は、こう言った気がした。
その場所は、貴方にふさわしいのかしら。
急いで眼を開ける。
「瑞希、大丈夫?」
俺は汗をかいて横たわっていた。
カーテンの隙間から陽光が差し込み、いつの間にか起き上った類沢が心配そうに髪を掻き分けてくれる。
「俺……寝てました?」
夢という感覚とは違った。
もっと、こう、現実味があった。
「二時間くらいね。悪夢でも見てるんじゃないかって苦しい顔してたよ」
彼女の声が、今も耳にこびりついている。
「あ……うなされてました? 迷惑かけてすみません」
サイドテーブルに置いてあった冷水の入ったグラスを渡される。
ひんやりとした感触に意識が鮮明になってくる。
それから、彼女の姿が薄れる。
ゆっくりと水を飲み下し、深呼吸をした。
「寝る前にあんな話したからかな」
「ち、違いますっ! 俺が勝手に考えすぎたから」
そうだ。
なんでだってくらいに。
ぐるぐる。
俺がここにいる理由を考えてた時以上に。
混乱と、眩暈。
パンッ。
目の前で合わさった掌に瞬きをする。
「考えるなって言ったよね」
手を叩いたらしい。
類沢は真剣な眼をしていた。
「はい……すみません」
それでも曇った顔のままの俺を見下ろす。
ため息一つ。
「店が開くまでまだあるから、ドライブでもしよう」
「えっ」
尋ね返す前に、もうリビングに背中は消えて行った。
「気……遣わせてどうする。俺」
口に手を当てて、ボフンとベッドにうずくまる。
でも、起きなきゃ。
またうだうだ考えてしまう。
俺は五時を示す時計を眺めて立ち上がった。
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