あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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一体なんの冗談だ

一体なんの冗談だ15

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 天使の楽園。
 ここは本当に名前にふさわしいんだろうか。
 看板を見ながら首を傾げる。
「はあ……そうでしたらそちらを先に、ね」
「今日が記念日だったんですね」
 麻那と運転していた女性が話している。
 それを一瞥してから、花壇に向かう。
「雅、今だけこっちにおいで」
 花が見えたところで呼び戻された。
「今日はね、ここができた創立記念日だから、集合写真を撮るんですって。向こうに行こうか」
 丁度、出てきた園長に麻那が頭を下げた。
 それから子供たちが集まってくる。
「今日で十二枚目ね。雅は」
 どうでもいい。
 なんでだろう。
 この施設すべてに関心が無くなった。
 ポケットに手を入れる。
 カサリ。
 忘れていた、男のメモ。
 それを握りつぶして、列に加わる。
 端に。
 さらに端に麻那が立った。
 朝から持ち歩いていた日傘を差して。
 その陰に僕も入れようと身を寄せた。
「ねえ、雅」
「ナニ」
 カメラマンが準備するわずかな時間。
 耳打ちするように言葉を交わす。
「私はね。私は……雅と外に出たいわ」
 風が吹く。
 日傘の影が揺れる。
「どこまで?」
 えっと声を上げた途端、シャッターの切る音がする。
「もう一枚、いきまーす!」
「どこまで……?」
「なんでもない」
 包帯に巻かれた腕をゆっくりと体の後ろに隠れるように体勢を変える。
 まるで、これさえ映らなければ、今日が無かったことになるんじゃないかって。
 自分でもわかる、バカな考え。
 気休め。
 大人の事情ってのは、いつでも子供には変えられない。
 シャッターの切る音は長く脳に響いて、翌日麻那に挨拶されるまで残っていた。

「……なんで施設を抜け出したんですか」
 長い夢でも見ていたような話を聞かされ、俺は慎重に尋ねた。
 三方の壁にとりつけられた時計は深夜を示している。
 類沢は手紙をベッドにおいて、薄く微笑んだ。
「一言でいえば、衝動かな」
「衝動……」
「ここから先は、かなり省略させてもらうけどね。僕はメモに従ってある男を尋ねに行った。心から触れ合う人のいない、姉さんも去るかもしれない施設よりずっと、何かを期待できる場所だと理由もなく信じてね」
 過去の自分を嘲笑う。
 短絡的な行動を。
「名前すら取り上げられる地獄とも知らずに」
 俺は革切れを見つめた。

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