126 / 137
一体なんの冗談だ
一体なんの冗談だ13
しおりを挟む
なんだっけ。
掴まれた腕が使えないときは……
「これを渡しておくよ」
ポケットに紙片をねじり込まれる。
その間もずっと腕は痙攣している。
必死に表情を保っているが、限界に近い。
喫茶店の中から視線を感じる。
踏み入れては来ない、傍観者の視線。
苛立たしい。
少し引いた左手を体の軸ごと前に押し出し男の首元をめがけて放つ。
すぐに取られたが、そのまま爪を立てて、その首筋を引きちぎる勢いで体に引きつけた。
三本の赤い痕が残る。
力の緩んだ手の間に血の付いた指をすべり込ませて体を捻る。
激痛と共に解放された。
「……元気なクソガキ」
男は首を押さえて吐き捨てる。
「戻ってくるのが愉しみだよ。高い値で買ってやるから」
耳に絡む声から逃れるように、折れた腕を支えて走る。
心臓を鷲掴みにしてくる視線。
振り返ったら戻れない気がした。
赤信号を素早く抜けて、あの雑踏に飛び込む。
「……っさい……五月蠅いな」
ぶつぶつと呟きながら走る。
振動で腕が焼けるように痛むが、歯を食いしばって意識から退ける。
どこ。
どこに向かえばいい。
駅にたどり着いて、やっと立ち止まる。
数時間の間に色が変わった世界。
醜い人の本性が雪崩のように襲ってくる。
怖い。
あの男みたいな人間で満ちている。
偽りの笑顔と偽りの関係。
確かなものなんて何もない人ごみ。
「雅っ」
その声だけは、確かに響いた。
ぎゅっと後ろから抱かれる。
振り返る隙もなかったなんて、どれだけ走ってきたんだろう。
「心配したわ……」
脱力して体を預ける。
「どこに行ったのかと」
「その辺歩いてただけ」
左手で指を差すと、麻那はすぐに右腕を持ち上げた。
ズクンと鈍痛に反応して身を曲げる。
「怪我してるのね……」
流石。
利き腕じゃない手を使っただけで悟るなんて。
僕は苦く笑いながら頷いた。
だが、彼女は表情を凍らせる。
「折れてるじゃない。なんで、なんでこんなことにっ」
ばっと周りを見回し、それから僕を見る。
「ちょっとごめんね」
強い口調で一言放つと、左腕を自分の首に回し、折れた右腕に負担がかからないように僕を持ち上げた。
抱えるように。
掴まれた腕が使えないときは……
「これを渡しておくよ」
ポケットに紙片をねじり込まれる。
その間もずっと腕は痙攣している。
必死に表情を保っているが、限界に近い。
喫茶店の中から視線を感じる。
踏み入れては来ない、傍観者の視線。
苛立たしい。
少し引いた左手を体の軸ごと前に押し出し男の首元をめがけて放つ。
すぐに取られたが、そのまま爪を立てて、その首筋を引きちぎる勢いで体に引きつけた。
三本の赤い痕が残る。
力の緩んだ手の間に血の付いた指をすべり込ませて体を捻る。
激痛と共に解放された。
「……元気なクソガキ」
男は首を押さえて吐き捨てる。
「戻ってくるのが愉しみだよ。高い値で買ってやるから」
耳に絡む声から逃れるように、折れた腕を支えて走る。
心臓を鷲掴みにしてくる視線。
振り返ったら戻れない気がした。
赤信号を素早く抜けて、あの雑踏に飛び込む。
「……っさい……五月蠅いな」
ぶつぶつと呟きながら走る。
振動で腕が焼けるように痛むが、歯を食いしばって意識から退ける。
どこ。
どこに向かえばいい。
駅にたどり着いて、やっと立ち止まる。
数時間の間に色が変わった世界。
醜い人の本性が雪崩のように襲ってくる。
怖い。
あの男みたいな人間で満ちている。
偽りの笑顔と偽りの関係。
確かなものなんて何もない人ごみ。
「雅っ」
その声だけは、確かに響いた。
ぎゅっと後ろから抱かれる。
振り返る隙もなかったなんて、どれだけ走ってきたんだろう。
「心配したわ……」
脱力して体を預ける。
「どこに行ったのかと」
「その辺歩いてただけ」
左手で指を差すと、麻那はすぐに右腕を持ち上げた。
ズクンと鈍痛に反応して身を曲げる。
「怪我してるのね……」
流石。
利き腕じゃない手を使っただけで悟るなんて。
僕は苦く笑いながら頷いた。
だが、彼女は表情を凍らせる。
「折れてるじゃない。なんで、なんでこんなことにっ」
ばっと周りを見回し、それから僕を見る。
「ちょっとごめんね」
強い口調で一言放つと、左腕を自分の首に回し、折れた右腕に負担がかからないように僕を持ち上げた。
抱えるように。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる