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一体なんの冗談だ
一体なんの冗談だ07
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「なんなんですか、今日は」
ふいっと後ろを向いて座る。
「今日、は?」
ああ、くそ。
確かに今日が特別どうこうってわけでもないけど。
「……なんでもありません」
立ち上がる音がしたかと思うと、クッションを剥ぎ取られる。
それだけで一気に無防備になってしまった気がして縋りつくが、身長差は大きい。
伸ばした手を掴まれる。
びくりと背中が跳ねた。
「な、んですか」
声が震えている。
今度も視線から逃れられない。
座ることも出来ずに、類沢を見上げる。
「何されると思ってるの?」
俺は言葉も紡げずに腰が抜けた。
吐息交じりの囁きに意識さえ奪われそうになって。
ギシリとソファが軋む。
手は掴まれたまま。
そこから熱が広がって、覆い尽くされてしまう。
灯りは点いているのに、背後の闇夜が下りてくるようだ。
「その眼……」
「え?」
ぱっと手を離される。
類沢は口を手で押さえて窓に向かった。
カーテンを閉じ、そのまま空を見つめる。
「似てるんだよね……怖がって、逆らえなくて、流されることに怯えて」
窓の外に過去の景色が広がっているんだろうか。
類沢は二枚の布の隙間から外を眺める。
ゆっくりと一言一言が耳に浸みる。
「誰に、ですか」
まだ心臓が落ち着かない胸を押さえて尋ねる。
振り返った類沢は、店での顔に戻っていた。
「さあ、誰だろうね」
にこりと。
感情を殺した笑みで。
俺はどうしたらいいのかわからず、ソファに沈む。
いつ、この人のことがわかるんだろう。
一生ないんじゃないかな。
それくらい、彼の後ろの闇は深すぎる。
「あの手紙のこと、聞きたい?」
それは質問じゃないんだろう。
「おいで」
見えない紐に引かれるように、俺は類沢のあとから寝室に入った。
ふいっと後ろを向いて座る。
「今日、は?」
ああ、くそ。
確かに今日が特別どうこうってわけでもないけど。
「……なんでもありません」
立ち上がる音がしたかと思うと、クッションを剥ぎ取られる。
それだけで一気に無防備になってしまった気がして縋りつくが、身長差は大きい。
伸ばした手を掴まれる。
びくりと背中が跳ねた。
「な、んですか」
声が震えている。
今度も視線から逃れられない。
座ることも出来ずに、類沢を見上げる。
「何されると思ってるの?」
俺は言葉も紡げずに腰が抜けた。
吐息交じりの囁きに意識さえ奪われそうになって。
ギシリとソファが軋む。
手は掴まれたまま。
そこから熱が広がって、覆い尽くされてしまう。
灯りは点いているのに、背後の闇夜が下りてくるようだ。
「その眼……」
「え?」
ぱっと手を離される。
類沢は口を手で押さえて窓に向かった。
カーテンを閉じ、そのまま空を見つめる。
「似てるんだよね……怖がって、逆らえなくて、流されることに怯えて」
窓の外に過去の景色が広がっているんだろうか。
類沢は二枚の布の隙間から外を眺める。
ゆっくりと一言一言が耳に浸みる。
「誰に、ですか」
まだ心臓が落ち着かない胸を押さえて尋ねる。
振り返った類沢は、店での顔に戻っていた。
「さあ、誰だろうね」
にこりと。
感情を殺した笑みで。
俺はどうしたらいいのかわからず、ソファに沈む。
いつ、この人のことがわかるんだろう。
一生ないんじゃないかな。
それくらい、彼の後ろの闇は深すぎる。
「あの手紙のこと、聞きたい?」
それは質問じゃないんだろう。
「おいで」
見えない紐に引かれるように、俺は類沢のあとから寝室に入った。
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