あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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どちらかなんて選べない

どちらかなんて選べない22

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 新聞紙は丸めたまま金属バットのように玄関に立てかけられた。
 今の騒ぎ、一夜たちに筒抜けじゃないか。
 俺は隣を一瞥して、忍の部屋に入る。

 長居する気はなかったが、拓にがっしり捕まえられているから帰れない。
 俺にいてほしいんではなくて、忍が機嫌を直さないから仲介人が欲しいんだろう。
「なにがあったの、てめぇ」
 どっかりとベッドにもたれて座った忍が尋ねる。
 タンクトップだから腕を頭の後ろで組むと細い腋が丸見えだ。
 綺麗に剃られた曲線が女みたいだ。
 前に拓から相談されたことの一つ。
 忍がいちいち欲情させてきて困ると。
 知るかって話だ。
 横を確認すると、拓がそこから必死で眼を逸らしている。
 なんだかんだ、平和だな。
 この二人は。
「ホストやってんの?」
「まあ……一応」
 拓がぐいっと肩を引く。
「マジで!?」
「耳元で叫ぶなっ」
 鼓膜に痛みが走る。
「瑞希から離れろ、バカが」
「あっ、嫉妬?」
「……うっぜぇ」
 また空気が険悪になる前に口を開く。
「歌舞伎町のさ、シエラって店知ってる?」
 忍がガバっと身を乗り出す。
「じゃあ、あの類沢さん本物だったのかよっ」
「え? なんで忍知ってる感じなの?」
 長い黒髪を掻き上げながら目を見開く。
「歌舞伎町№1ホストのっ?」
「そ……そうだけど」
「ナニ、誰?」
 忍の嬉しそうな反応に少し不満げな声を洩らす拓。
「やべ……瑞希やべぇな」
「忍の浮気相手?」
「誰がてめぇの恋人だ、バカ」
 挟まれた俺はどんな顔をすればいいんだ。
「どこで接点があったの」
「あ? ああ、えっと。新宿に行ったときに、バーで怪しい男に絡まれたんだよ。ホストに興味ないかって。なんつー名前か忘れたけど、俺のこと可愛い可愛いってバカにしやがってな」
「それ、雛谷さんだ……」
「振り切れなくて困ってたら、類沢って男が止めに入ったんだよ。嫌がってるでしょ、って。めちゃくちゃモテそうな感じの。先月だっけか?」
 話している間に俺の隣から移動した拓が忍に抱き付く。
 ぎゅーっと肩に頭を埋めて。
「だから忍は危なっかしいんだよ! オレから離れて街歩いたら攫われちゃうって」
「熱ぃな、離せ」
 まさか、ここで類沢と繋がりがあったとは。
 そこで河南を思い出す。
 ありえる気がした。

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