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どちらかなんて選べない
どちらかなんて選べない19
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顔を見合わせたまま、気まずい沈黙が漂う。
「とりあえず……中に」
中に入って。
前の家主に言うのも些か気が引けたんだろう。
一夜は言葉を切って、道を開けた。
奇妙な緊張とともに足を踏み入れる。
それから眼を疑った。
「嘘、だろ」
まず目に入ったのは傘立て。
それからキッチンの戸棚に暖簾。
隙間から見える部屋の家具。
「一応ね、瑞希のおいていったのは一つもいじってないんだ」
視線に気づいた一夜が顎を掻きながら説明する。
まさに、俺がシエラに行った日のままの部屋がそこにあった。
流石に二人で暮らしているから、大きなソファベッドが増えている。
もともと最低限の家具しかなかったので空間は余っていたようだ。
壁に貼ってあった瑠衣のポスターもそのままだ。
微妙に気恥ずかしくなる。
夕飯の途中だったんだろう。
床には二つのトレイに料理が並んでいた。
肉じゃがと温泉卵。
味噌汁も湯気を立てている。
どっちが作ったのかな。
どうでもいいことを考える。
「それで。なんでこうなったの?」
予想以上に張りつめた声に自分で驚く。
咳払いをして誤魔化すが、やはりプライベート空間に他人がいることへの拒絶反応は簡単には消えない。
「ああ。瑞希が来たってことは、類沢さんも認めているってわけだしな」
「え」
二人が床に座ったので、俺はなんとなくソファに座る。
目線を合わせようと深めに。
「俺たち前までは栗鷹さんの下宿に住んでたんだ」
「診療所の?」
「そう」
記憶では、あの夫妻は医者のはずだが。
「あー、えっと。あの人達シエラと面識が長いからさ。№に入っていないホストが契約するって下宿も経営してんだ」
「マジで?」
三嗣がこくこくと頷く。
「ちゃんと飯も出ますし、風邪引いたら診てくれますし、良い場所ですよ」
「三嗣」
一夜が睨んで話を戻させる。
「で、瑞希がシエラに来た翌日な」
「類沢さんから電話があったんです。今すぐ荷物まとめてこの住所のこの部屋に行けって」
「類沢さんが?」
「夜中だったしさ、鍵もないわけじゃん。そしたら類沢さん……ここの管理人と話はつけたからって、合鍵もらって」
話が早すぎる。
頭の中の整理が追い付かず、眉をしかめた。
「なんで?」
絞り出た一言だ。
一番訊きたかったこと。
「とりあえず……中に」
中に入って。
前の家主に言うのも些か気が引けたんだろう。
一夜は言葉を切って、道を開けた。
奇妙な緊張とともに足を踏み入れる。
それから眼を疑った。
「嘘、だろ」
まず目に入ったのは傘立て。
それからキッチンの戸棚に暖簾。
隙間から見える部屋の家具。
「一応ね、瑞希のおいていったのは一つもいじってないんだ」
視線に気づいた一夜が顎を掻きながら説明する。
まさに、俺がシエラに行った日のままの部屋がそこにあった。
流石に二人で暮らしているから、大きなソファベッドが増えている。
もともと最低限の家具しかなかったので空間は余っていたようだ。
壁に貼ってあった瑠衣のポスターもそのままだ。
微妙に気恥ずかしくなる。
夕飯の途中だったんだろう。
床には二つのトレイに料理が並んでいた。
肉じゃがと温泉卵。
味噌汁も湯気を立てている。
どっちが作ったのかな。
どうでもいいことを考える。
「それで。なんでこうなったの?」
予想以上に張りつめた声に自分で驚く。
咳払いをして誤魔化すが、やはりプライベート空間に他人がいることへの拒絶反応は簡単には消えない。
「ああ。瑞希が来たってことは、類沢さんも認めているってわけだしな」
「え」
二人が床に座ったので、俺はなんとなくソファに座る。
目線を合わせようと深めに。
「俺たち前までは栗鷹さんの下宿に住んでたんだ」
「診療所の?」
「そう」
記憶では、あの夫妻は医者のはずだが。
「あー、えっと。あの人達シエラと面識が長いからさ。№に入っていないホストが契約するって下宿も経営してんだ」
「マジで?」
三嗣がこくこくと頷く。
「ちゃんと飯も出ますし、風邪引いたら診てくれますし、良い場所ですよ」
「三嗣」
一夜が睨んで話を戻させる。
「で、瑞希がシエラに来た翌日な」
「類沢さんから電話があったんです。今すぐ荷物まとめてこの住所のこの部屋に行けって」
「類沢さんが?」
「夜中だったしさ、鍵もないわけじゃん。そしたら類沢さん……ここの管理人と話はつけたからって、合鍵もらって」
話が早すぎる。
頭の中の整理が追い付かず、眉をしかめた。
「なんで?」
絞り出た一言だ。
一番訊きたかったこと。
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