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どちらかなんて選べない
どちらかなんて選べない16
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雨の中だと影も光も輪郭を手放す。
俺は雑踏に目を向けながらぼんやり思った。
靴は水に飲みこまれて、おいて行かれそうになるのを必死で体を追いかける。
パシャパシャと。
眩しくもなく、暗くもない空間を、半開きの目が漂う。
雨は好き。
けど、怖い。
いろんなものを麻痺させてしまうから。
「風邪ひくよ」
「……類沢さんこそ」
俺はやってきた人物に顔を上げた。
濡れて色の変わったコートを羽織る、類沢がいた。
家に入り、タオルを渡される。
肌に張り付いた衣服が不快だ。
「先に帰っても良かったのに」
「合鍵ないですから」
「じゃあ、いる?」
玄関の戸棚の上から、十字架のついた鍵を持ち上げる。
俺はそれを数秒見つめて首を振った。
「河南ちゃんの鍵は持ってるの?」
からかうように尋ねる。
「財布に入ってます」
今の今まで忘れていたけど。
そうだ。
俺は河南の家になんで行かないんだろう。
別に逃げ込むってわけじゃないけど、なぜか気が引けた。
「夕飯にしようか」
濡れたシャツを取り換え、キッチンに立つ類沢。
俺はどうして、河南の家には行けないくせに、ここではのんびり暮らせるんだろう。
いや、違う。
なんでこんなことを考えるんだろう。
そっちの方がわからない。
俺はここから逃げたいのか。
俺はここから出て行きたいのか。
油の爆ぜる音。
俺がここにいる理由って?
類沢は言った。
-借金を返すためだよ-
だったらほかの誰かに頼み込むことだってできる。
羽生兄弟のアパートとか。
あれ。
どこに住んでるんだろう。
アカだって。
たぶん一人暮らしだ。
千夏もそうだ。
流石にチーフには無理だとしても、ほかに選択肢はいくらだってあるんだ。
急に世界が圧迫してくる息苦しさに襲われる。
トンと壁にもたれ、そのまま崩れる。
キッチンの音が止まった。
考えすぎて、いやになる。
でも考えずにはいられない。
だって、もうすぐ本当に壊れてしまう。
「大丈夫? 瑞希」
眼を開けば、また体が熱くなる。
この葛藤から解放されるには、俺はどちらを選んだらいいんだろう。
俺は雑踏に目を向けながらぼんやり思った。
靴は水に飲みこまれて、おいて行かれそうになるのを必死で体を追いかける。
パシャパシャと。
眩しくもなく、暗くもない空間を、半開きの目が漂う。
雨は好き。
けど、怖い。
いろんなものを麻痺させてしまうから。
「風邪ひくよ」
「……類沢さんこそ」
俺はやってきた人物に顔を上げた。
濡れて色の変わったコートを羽織る、類沢がいた。
家に入り、タオルを渡される。
肌に張り付いた衣服が不快だ。
「先に帰っても良かったのに」
「合鍵ないですから」
「じゃあ、いる?」
玄関の戸棚の上から、十字架のついた鍵を持ち上げる。
俺はそれを数秒見つめて首を振った。
「河南ちゃんの鍵は持ってるの?」
からかうように尋ねる。
「財布に入ってます」
今の今まで忘れていたけど。
そうだ。
俺は河南の家になんで行かないんだろう。
別に逃げ込むってわけじゃないけど、なぜか気が引けた。
「夕飯にしようか」
濡れたシャツを取り換え、キッチンに立つ類沢。
俺はどうして、河南の家には行けないくせに、ここではのんびり暮らせるんだろう。
いや、違う。
なんでこんなことを考えるんだろう。
そっちの方がわからない。
俺はここから逃げたいのか。
俺はここから出て行きたいのか。
油の爆ぜる音。
俺がここにいる理由って?
類沢は言った。
-借金を返すためだよ-
だったらほかの誰かに頼み込むことだってできる。
羽生兄弟のアパートとか。
あれ。
どこに住んでるんだろう。
アカだって。
たぶん一人暮らしだ。
千夏もそうだ。
流石にチーフには無理だとしても、ほかに選択肢はいくらだってあるんだ。
急に世界が圧迫してくる息苦しさに襲われる。
トンと壁にもたれ、そのまま崩れる。
キッチンの音が止まった。
考えすぎて、いやになる。
でも考えずにはいられない。
だって、もうすぐ本当に壊れてしまう。
「大丈夫? 瑞希」
眼を開けば、また体が熱くなる。
この葛藤から解放されるには、俺はどちらを選んだらいいんだろう。
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