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どちらかなんて選べない
どちらかなんて選べない14
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逸らした視線を戻される。
「それだけ?」
ああ。
この人は、俺の心なんてお見通しなんだろう。
誤魔化せない眼。
逃げられない体勢。
「そんな真っ赤な顔して」
ほら。
俺は器用じゃない。
頬を指が這うだけで、ざわざわと全身が騒ぎ出す。
震える手で、首筋に移動しかけた類沢の指を止める。
「これ以上……惑わせないで、ください」
声も震えている。
「俺は、やなんです……河南を悲しませたくないん」
それ以上云う自由はなかった。
唇が重なり、くっと顎を持ち上げられる。
両手で肩を掴んでも、力で勝つはずがない。
舌先に翻弄されて、喉を伝う液に身をよじらせる。
「はッ……んむ」
片足がソファから落ちる。
冷たい床に、体の熱さを思い知らされた。
「瑞希は嘘が下手だよね」
俺の唇を指でなぞりながら類沢が囁く。
力がぬけてだらしなく開いた唇を。
「本当は怖がりなだけ」
小さく首を振る。
「ち、がう……」
「だったら耐えてみせなよ」
両手で顔を包まれる。
もう蒼い眼しか見えない。
「借金を返し終わるまで、壊れずにいれるかな?」
すっと離れた類沢は、煙草をくわえて笑った。
その笑みは今までで一番愉しそうで、まるで悪魔のようだった。
「シエラへようこそ、お嬢様」
お迎え組の列の端。
俺を見つけた一夜が声をかける。
千夏のスーツだ。
当の本人は今日も先日の団体客に囲まれている。
「元気ないな……昨日はゆっくり休めたか?」
「全然っていうか……」
そうだよ。
昨日は休日だったんだよ。
なんでもう満身創痍なんだ。
「瑞希さん、類沢さんと喧嘩でもしたんですか」
三嗣のセリフにびくっと肩が跳ねる。
「な、なんで……?」
「なんとなくですけど、当たりだったみたいですね」
「お前、年上にカマかけるとか好い度胸してんな」
一夜が睨みつける。
「いやだってその……変じゃん」
周りからは見えない位置で一夜が小突く。
だが、俺はもう自分の意識に入っていた。
本当に、どうしたらいいんだろう。
「それだけ?」
ああ。
この人は、俺の心なんてお見通しなんだろう。
誤魔化せない眼。
逃げられない体勢。
「そんな真っ赤な顔して」
ほら。
俺は器用じゃない。
頬を指が這うだけで、ざわざわと全身が騒ぎ出す。
震える手で、首筋に移動しかけた類沢の指を止める。
「これ以上……惑わせないで、ください」
声も震えている。
「俺は、やなんです……河南を悲しませたくないん」
それ以上云う自由はなかった。
唇が重なり、くっと顎を持ち上げられる。
両手で肩を掴んでも、力で勝つはずがない。
舌先に翻弄されて、喉を伝う液に身をよじらせる。
「はッ……んむ」
片足がソファから落ちる。
冷たい床に、体の熱さを思い知らされた。
「瑞希は嘘が下手だよね」
俺の唇を指でなぞりながら類沢が囁く。
力がぬけてだらしなく開いた唇を。
「本当は怖がりなだけ」
小さく首を振る。
「ち、がう……」
「だったら耐えてみせなよ」
両手で顔を包まれる。
もう蒼い眼しか見えない。
「借金を返し終わるまで、壊れずにいれるかな?」
すっと離れた類沢は、煙草をくわえて笑った。
その笑みは今までで一番愉しそうで、まるで悪魔のようだった。
「シエラへようこそ、お嬢様」
お迎え組の列の端。
俺を見つけた一夜が声をかける。
千夏のスーツだ。
当の本人は今日も先日の団体客に囲まれている。
「元気ないな……昨日はゆっくり休めたか?」
「全然っていうか……」
そうだよ。
昨日は休日だったんだよ。
なんでもう満身創痍なんだ。
「瑞希さん、類沢さんと喧嘩でもしたんですか」
三嗣のセリフにびくっと肩が跳ねる。
「な、なんで……?」
「なんとなくですけど、当たりだったみたいですね」
「お前、年上にカマかけるとか好い度胸してんな」
一夜が睨みつける。
「いやだってその……変じゃん」
周りからは見えない位置で一夜が小突く。
だが、俺はもう自分の意識に入っていた。
本当に、どうしたらいいんだろう。
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