あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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どちらかなんて選べない

どちらかなんて選べない10

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「悠さんとはいつから?」
 そろそろ残りも少なくなってきた。
 もちろん、俺は一杯で止まっているから殆ど類沢が飲んでいる。
「いつから? ああ、篠田が紹介してきたんだよね。どこで出会ったって言ってたかな……あの人は顔が広いから」
「政治家とか知り合いいたりするんですか」
「いるね」
 半笑いで冗談交じりに訊いただけに、反応が思いつかなかった。
 恐ろしい。
 いや、むしろ水商売だからこそコネや裏は武器になるし、必要なんだろうか。
 まだまだわからないことばかり。
「悠と鏡子さんの婚姻も見届けたらしい」
「ええっ」
 あのデコボココンビともいえる夫婦。
 どんな出逢いだったんだ。
「鏡子さんは、昔ホステスでね。悠より先に篠田に会った」
「またドラマチックですね」
 最後の一杯を傾ける。
 コンとテーブルにグラスを置いて、指を滑らせる。
「今の明るい鏡子さんを見ているとね、いろいろ過去になったんだなって」
「大変だったんですか?」
「今度本人に尋ねてみな」
 それは自信ない。
 空になった二つのグラスを器用に片手で持ち上げ、類沢はカウンターの奥に消える。
 水音の後に出てきた類沢は、少しだけ酔って見えた。
 珍しい。
 いつもは絶対にないのに。
「流石、悠だよ……瑞希は水飲んでおいた方がいい」
 ぽんとペットボトルを投げられる。
 確かに後からアルコールが回ってくる。
 冷たいそれが喉を伝う感触に癒される。
 類沢はソファに戻らず、寝室に行ってしまった。
 月明かりが揺れるリビングを見渡す。
 随分ゆっくりと時間が流れていたみたいだ。
 もうすぐ日付が変わる。
 また仕事が始まる。
 追いかけて寝室に入ると、類沢は机の前に立っていた。
 引き出しを開けて。
 瞬間、あの留守番の日を思い出す。
 ざわっと鳥肌が立った。
「瑞希」
 呼びかけられただけで、逆撫でされたようだ。
 きっとそれは、類沢から放たれる空気の所為。

「開けた?」

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