あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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随分未熟だったみたい

随分未熟だったみたい07

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 篠田は次に類沢を連れ出す。
 丁度客が途切れる五分を知ってのことだ。
 裏口に来た類沢が眉をひそめる。
「ナニ?」
「あのあと瑞希と何かあったか」
 顔を見るまでもなかった。
 息を吐き、首筋を押さえる。
 そのまま指でなぞりながら類沢はポツリと話始めた。
 聞き終えた篠田が尋ねる。
「それ、本当に薬のせいか?」
「心外だね」
 考え以上の展開に篠田は首を振る。
「あいつはともかく、お前大丈夫なのか雅」
 黒に金糸を織り込んだスーツを着こなす彼だが、一瞬弱々しく笑んだ。
「随分未熟だったみたい……僕も」
 フレグランスの甘い香り。
 魅せた額に垂れる一筋の黒髪。
 誰もが視界を奪われる瞳。
 その類沢が、初恋をした青年のように戸惑っている。
 篠田はつい顔が緩みそうになった。
「笑ってない? 春哉」
「ちょっとな。まさかお前が恋愛に悩むなんて思ってもなかったから」
「恋愛、ねえ。一緒に住むのって意外に地獄ってのは知ってたんだけど……生殺しっていうの?」
「彼女がいようが十歳近く年下だろうが関係ないんじゃないのか、今までの雅なら」
 煙草を取り出しかけた手が止まる。
 長い睫毛が妖しく下を向く。
「自制効かない自分が厭でね」
「これからどうする」
 類沢は夜風を浴びながら思案した。
「瑞希が帰りたいって言えば帰してあげるかな」
 それから扉に手をかける。
「多分無理だけど」
「ああ、今さらだな」
 フッと息を洩らし、類沢は輝く店内に戻っていった。
 パタン。

 閉じた扉を見つめる。
「雅……このままだと一位を維持できないんじゃないか」
 低い声が届くことはなかった。
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