あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
80 / 137
随分未熟だったみたい

随分未熟だったみたい05

しおりを挟む
 目が覚めると夕方で、俺はダボダボのシャツを着てベッドに横たわっていた。
 身を起こそうとして寝返りをうつと、目の前に類沢の顔があった。
「わっ」
「額はぶつけられずに済んだね」
 可笑しそうに云う類沢を何故か直視できない。
 必死で記憶を辿る。
 確か、みんなが助けに来て。
 車で帰って来て。
 それから……
 顔から火が出そうなほど熱くなった。
「あ」
「思い出した?」
「るる類沢さん、俺……」
 あれが夢じゃないなら。
 現実なら。
 ぐるぐると混乱する。
 俺が誘った?
 脚を擦り合わせると液体が絡まった。
 サァーッと青ざめる。
「俺……え。まさか」
 河南という者がありながら……
 ポンと類沢が頭を撫でる。
 俺の顔を引き寄せ囁いた。
「加減出来なくてごめんね」
 そのスマイルに魂が抜けそうになった。
 抜かれたかもしれない。

 良い香りがする。
 そっか。
 仕事の準備しなきゃ。
 客とって。
 借金返して。
 ボスっ。
 ベッドに倒れる。
 そんなことは全部どうっでもいい。
 最重要は……
「夕飯出来たよ、ってまだ寝るの?」
「起きますっ」
 彼だ。
 テーブルには相変わらずプロ級の料理が並んでいる。
 でも食欲はそそられない。
 グラスを傾ける類沢にばかり目がいってしまう。
 上下する喉に、理由もなく恥ずかしくなる。
「お箸の持ち方忘れたの?」
 いつまでもカチカチとしていた俺の手元を指差す。
「あっ、いや」
「あのさ」
 びくうっと背中が反応する。
 何を言われるか全神経が張りつめる。
「僕も瑞希も玲とかいう男の薬でおかしくなっただけなんだから、そんなに怯えないでくれる」
「怯えてるんじゃなくて……っ」
 じゃなくて、なに。
 どうしたらいいのか、何を言えば良いのか、どんな顔をしたらいいのか全くわからない。
 類沢が箸を置いて、席を立った。
 俺のそばに来て両手を掴む。
 カラン。
 手から二本の棒が零れる。
「なんで瑞希は僕の家にいるの」
「へ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...