あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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随分未熟だったみたい

随分未熟だったみたい02

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 倉庫にいたホスト達の店には連絡した。
 何も要求はしていない。
 ただ、任せると。
 歌舞伎町のルールに乗っ取って、任せると。
 電話を切った篠田は苦く顔を歪めた。
「これだからホストが足んなくなるんだよな」
「掃除だよ。人事異動」
 玲と聖は遂に捕まらなかった。
 捕まえたい訳でも無かった。
 聖は今、どの店にいるのか。
 知る気もなかったから。
「そろそろ鎮静剤が効いてきたか?」
「瑞希?」
「お前もだよ」
「さあ……慣れた」
 三本目を軽く噛んで、類沢は車に背中を預けた。
 太陽をよく含んだ暖かなボディに。
「なんか疲れたね」
「ああ。考えたくないものも考えたからじゃないか」
 篠田の顔に、複雑な感情が波打つ。
「春哉は……」
「なんだ」
「今まで雇用したホスト全員覚えてる?」
「そうだな、エピソード一つくらいは覚えてる。全員」
「凄いね」
 穏やかな時間。
 二人は風を浴びて力を抜いた。
 張り詰めていた緊張も共に。
「帰って眠ろうかな」
「休め」
 篠田も疲れを隠さなかった。

 車に乗り込む。
 ハンドルに伸ばした手がひきつった。
 腕を掴んで深く息を吐く。
 小刻みに震えている。
 まだ、キツイか。
 助手席の瑞希も意識はないが、もがくような息をしている。
 被せたコートの隙間から暴力の痕が見える。
 痣。
 縄の痕。
 唇も切れてる。
 泣き腫らした目も痛々しい。
「早く帰らないと」
 キーを差し込み回す。
 三秒ほど冷たいハンドルに、もたれかかる。
「帰れなくなるね」
 起き上がって目を擦り、類沢はアクセルを踏んだ。
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