あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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殺す勇気もないくせに

殺す勇気もないくせに06

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「……酔う」
「だから後ろ乗れって言っただろ」
 車体にもたれかかる雛谷の背中を擦る如月。
 類沢はスーツを正して目の前の倉庫を見上げた。
「るーいさわ!」
 バイクのメットを抱えた空牙が手を上げて呼び掛ける。
 そばで吟は真剣に銃を磨いている。
 彼の銃身はいつでも新品の輝きだ。
 確か三十年前のモデルらしいが。
「瑞希ちゃんはここで間違いねぇよ」
「瑞希ちゃん……」
 小さい呟きは相手に届かない。
 訳のわからない苛立ちを頭部に感じながら、類沢は壁に手をかけた。
「何人?」
「あー……と、十一だ」
「結構だね」
「我円の兄さんが落ち込んでたぞ? 一人頭三人は欲しかったってな」
「誰の話です、空牙氏」
 噂をすれば、か。
 白髪がオーラを放つ。
「別に気持ちが沈んだりは致しませんよ。獅子は兎にすら全力をかけるのですから」
「ウズウズしてるくせによー」
 この二人は大抵ぶつかる。

 類沢は伴の後ろから歩いてきた影にアイコンタクトをした。
「篠田」
「おう」
 つい春哉と呼びそうになった。
 今の篠田はプライベート並みに本性を醸し出しているから。
 大分余裕がなさそうだ。
 いきなり新入りが拉致られれば普通か。
「眉間にシワだ、類沢」
「え? 本当に?」
 気づかなかった。
 額に手を当てて小さく笑う。
 限界なのはどっちだ。
「突入すんの~、みなごろし?」
「いや……交渉かな」
 雛谷は不満げに頬をふくらます。
「なんで? 身内だから?」
「空斗」
 如月がその口を塞ぐ。
 だが、彼も訊きたいらしい。
「なきにしもあらずだな」
「厭に曖昧じゃな、篠田」
 吟が手入れを終えて近寄ってきた。
 肩をすくめて。
「昔の息子に躾をするのは面倒なことだ、それは変わらん。たちが悪い息子ほど長く厄介なもんになる」
「経験多そうだな爺さん」
「まあ、な」
 類沢は篠田の隣についた。
 小声で確認する。
「僕に任せてくれるんだよね」
「死なない程度にはな」
 暗がりから紅乃木を先頭にシエラの連中が現れる。
「突入ですか」
 千夏が進み出た。
 確か初めに瑞希に声をかけたのは千夏じゃなかったか。
 ぼんやりとそんなことを思いながら、類沢は頷いた。

「突入だ」
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