あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
68 / 137
殺す勇気もないくせに

殺す勇気もないくせに05

しおりを挟む
 寒い。
 上着を取り返したかったけど、多分イヤホンもマイクも壊れたかもな。
 冷たい床に膝をついて項垂れる。
「よし、こんなもんか」
 そばでカチャカチャとなにか作業をしていた玲がやってくる。
 見えないけど。
「強めで良いって聞いたからな。いつもの二倍濃度だけど……死なないだろ」
「は?」 
 縛られた腕を持ち上げられ、鋭い痛みが走った。
 針?
 細い針が勢いよく抜かれる。
 ジクジクと残痛が蠢く。
「あっ……ぐ」
 耐えきれずに倒れる。
「痛いのは初めだけだ」
 玲が道具を仕舞いながら言う。
「セックスと同じだろ?」
「……ぅああッッ、は」
「痛そうだな」
 愉快げに呟き、俺をマットに運ぶ。
 地面がどこかもわからない。
 心臓が叫んで、呼応するように息も荒くなる。
「半裸でもがいて、卑猥すぎだろ」
 誰のせいだよ。
 声がどこからしたのかもわからない。
「は……ぁくッッ」 
 カチッ。
 ライターの音の後に煙の臭いがする。
 煙草か。
 息が苦しい中では微かな煙にすら咳き込んでしまう。
「ゲホッ、はッッゴホ」
「あ。煙い? ごめんな」
 辞める気配もない軽い口調。
 初めて知った。
 煙草にも種類があるんだ。
 類沢さんのとなんて違う。
 吸うほど頭痛が増す。
 わざとなんだろう。
 打たれた場所が麻痺してきた。
 なんだ。
 なんの薬だ。
 思い出したように恐怖がざわざわと足先からかけ上がってくる。
「シエラっていうと歌舞伎町No.1って肩書きもあって重く聞こえるけどよ、こうやって一人だけ引っ張って来たらなんてことないんだよな」
 玲の言葉が何重にも重なって聞こえる。
「あの類沢さんだって注射一本で壊れちゃうんじゃねーかな。もうすぐ見られるけど」
 くくく、と笑い声が反響する。
 勝手に首が震える。
 見えない視界がゆらゆらと。

 あれ……俺、死ぬ?

 手に爪を立てても感覚がない。
 嘘だろ。
「話聞いてるか?」
 意識が遠退く。
 ヤバい。
 あんなに寒かったのに、熱くなってきた。
「好みじゃないからさ、あとは他の奴等に引き渡すが、死ぬなよ?」
 ガタン。
「玲」
「今呼ぼうと思ってたんだが」
「予想より早く類沢が来たみたいだ」
「あ?」
 類沢、さんが?
「正確には……類沢達が」
 まさか。
 みんなが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...