あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
60 / 137
超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です21

しおりを挟む
 インテイスから離れたバー。
 吟が経営するそこは、ホストが占めていた。
「ったく。連絡が急すぎんだよ類沢さんよー」
「悪かった」
 一番奥のテーブル席に、あの八人が座っている。
 俺はそばの小さな丸テーブルから会話を聞いていた。
 羽生三兄弟と一緒に。
「雅氏は手はずを整えていらっしゃった。責める理由などないはずではありませんか、空牙?」
「我円の兄さんに言われたら反論出来ねーよ」
 そんな父を伴は誇らしげに見つめている。
「しかし、篠田さんの剣幕は流石でしたね……」
 紫苑の言葉に軽く首を振る。
「現役に比べたら全然だろう。雅に今は主導権は譲ったしな」
「篠田。そう言う割には嘘を吐いていたよね?」
 全員が身を乗り出す。
 雛谷だけは、グラスを傾けた。
 沈んだ瞳で。
「秋倉の件か? まぁ……背後にあいつがいる確証はなかった。無為にお前を動揺させたくなかったしな。事前に知ったところで同じだったんじゃないか」
「そうかなぁ」
 今度は雛谷に視線が注がれる。
 本人はワインを見つめて、うっすらと笑った。
「類沢さんなら、秋倉おじさんを再起不能にしてくれたと思うけどー?」
「おやおやおや。雛谷氏も秋倉に恨みでもあるのですか」
 類沢は静かに雛谷と目を合わせた。
 俺の知らない、何かが交わされた。
 それからすぐに二人とも視線を逸らす。
 まるで、何かの儀式。
 一瞬の儀式。
「別にー」
「何もないよ」
「それでいいんだ、若いの」
 吟がカッカッカと笑い、蔵から追加の瓶を運んで来た。
 なんだろう。
 彼らを取り巻く空気は。
 踏み込みはせず。
 隔絶もせず。

 絶妙な関係。

「みぃずき、飲んでる?」
「アカ!」
 包帯を巻いたアカが平気そうに席に腰掛ける。
「大丈夫なのか」
 千夏の問いに曖昧に頷く。
「あんな軽い一撃、ヌルすぎて」
 一夜と三嗣は居づらそうだ。
 あくまでアカはNO.2。
 そう気軽く話せない。
 これだ。
 俺ははっとした。
 後ろを確認する。
 あの八人にはこれがない。
 面倒な上下関係などない。
 多分、あるとすれば篠田の位置。
 それから吟への尊敬。
 そのくらいだ。
「格好いい……」
「誰が?」
 一夜が首を傾げる。
「ん。みんなかな」
 今夜、俺はまた違う一面を知った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...