あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です14

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 こいつが黒幕?
「悪いが、当店は女性専用でね」
 思い出した。
 この声。
「秋倉真か」
 男、いや、秋倉が立ち止まる。
「ほう。類沢じゃないか。あのシエラにまで嗅ぎ付けられるとは」
 秋倉の後ろに十人ほど、屈強そうな男達が控える。
 面倒だ。
 千夏も必死で思い出そうとしているが、彼は知らない。
「随分ご立派になって……え? 稼いでいるんだろう。恩も忘れて」
「恩? 僕を薬漬けにして客をとらせようとした男娼宿のオーナーに、切りたい恩もありませんがね」
「失礼な。お前なら国一の男娼になれたから見込んでやったのに」
 汚い声。
 忘れるはずがない。
 脳に染み付いた声。
 篠田に拾われる前、こいつが手を差し伸べてきた。
 孤児院から出て、さ迷っていたあの時期に。
「その宿も潰れて、今じゃ他の店から客を奪う醜い名義屋ですか。僕も逃げ出して良かったなぁ?」
「類沢。まだ俺が怖いんだろ」
 黙って手首をさする。
 首筋がピリピリと痛む。
 もう十年も前の話なのに。
「また帰って来ないか。あのビルは残してあるぞ」
 脳裏に映像が蘇る。
 灰色のコンクリート。
 押しつぶされそうな圧迫感。
 痩せた少年達。
 目の前の男が鞭を持って近づく。
「よくあの枷を外せたな」
 額から汗が滲む。
 類沢は右の手首を掴んだ。
 まだ、枷があるような錯覚。
 電気が流れた感覚。
「ほら、お前はこっちに来るべきだろう」
 悠々と手招きするその手を引きちぎってやりたい。
 金と欲が詰まった体を撃ちまくりたい。
 あんなに肥えているんだ。
 血も噴き出るだろう。
「……類沢さん」
 千夏が肘を軽く当てる。
「貴方はオレ達のトップですよ」
「……わかってる」
 湧き上がっていた熱を押し殺す。
 こんなに殺意が芽生えたのは、こいつにしかない。
 眼帯を掴んで息を吐く。
 冷静にならないと。
 次に起こした顔を見て、秋倉の笑みが消えた。
 真っ直ぐな藍の瞳。
 迷いの無い口元。
「もったいないな、類沢」
「僕はホストですから。客を守りに来ただけです」
「客ね」
 秋倉はポケットに手を入れ、何かのスイッチを押した。
 途端に真っ白になる視界。
 類沢たちは眼帯を反対にした。
 ぼんやりと視界が戻る。
 円形のロビー。
 その壁に並んだ扉。
 個室か。
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