あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です09

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 翌日出勤すると、店がやけに騒がしかった。
 まだ開店前だが。
 中央にホストが集まっている。
 類沢が俺を置いて篠田の元に行く。
「何があった」
「名義屋がうちの情報を売っているらしくてな。客が数人連絡取れなくなっているんだ」
 名義屋?
 俺は首を傾げて、輪に近づく。
 羽生三兄弟が並んでいる。
 類沢に付くメンバーも囲む。
 端には瀬々の派閥もいた。
「連れ戻してくればいいんじゃないの」
 NO.2の紅乃木が髪を掻きながら言った。
 みんなが注目する。
「もとはうちのだろ。連れ戻してくればいい話しじゃん」
「連絡が取れないのにか?」
 千夏が口を挟む。
 ざわざわと派閥の中で話し合いが起こる。
「いや、いい考えだと思う」
 類沢の一言でしんとした。
「少し名義屋の動向を調べてたんだけど、ある店で決まって客達を集めているらしいんだ」
「どこだ?」
 篠田が前に出る。
 俺は話に置いていかれていた。
「歌舞伎町の中でも新しいクラブなんだけど。"インテイス"って名前の。すぐ行ける距離だよ」
「なら、行こうよ」
 紅乃木がソファから立ち上がる。
 ポケットから折りたたみナイフを取り出し、指先で回した。
 鮮やかな手つきを、つい目で追ってしまう。
 そして思った。
 ここは怖い人が潜んでいる。
 何人も。
「人のモノ盗んだらどうなるか……教えてやりにさ」
「紅乃木。気持ちはわかるが、暴力沙汰は禁止だ」
 篠田が制する。
 紅乃木は冷たく睨んで、ナイフを握り締めた。
 いつもの客への笑顔はない。
 気配さえない。
「シエラまで売られちゃ終わりだよ?」
「それはそうだが。類沢、どうするつもりだ」
「紅乃木に賛同」
「おい」
「気持ちはね。ま、理性に従うなら交渉に行くかな」
 またホストが動揺する。
「交渉?」
 声をあげたのは千夏。
 自分のスーツを着た一夜の隣。
「一兄に恥かかせやがった連中に何を譲歩するってんです?」
 わかった。
 ここでの発言権はナンバーに入った者にしか与えられないのだ。
 だから、自分の派閥の意見を代表して口を開く。
「譲歩はしない。客も渡さない」
 ハッと瀬々が笑う。
「ならどうする?」
「向こうを潰さない。それが交換条件だ」
 篠田がなにか言おうとしたのを留めさせる。
「勿論、客を盗みはしないよ」
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