あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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体を売るなら僕に売れ

体を売るなら僕に売れ09

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 朦朧とした意識の中で、類沢が呼んでいる。
「……ずき、瑞希?」
 頭がガンガンする。
 なにも見えない。
 なんでだ。
 ペチペチ音がする。
「起きろ」
「悠、優しくしたげなさいよ」
「そろそろ起きるわよ」
 あぁ。
 目、閉じてたんだ。
 瞬きする。
「おはよ」
 類沢の穏やかな顔があった。
 急いで跳ね起き、また額をぶつける。
 頭を押さえ、体を曲げる。
 隣で類沢も額に手を当てていた。
「……瑞希は相当恨みがあるみたいだね」
「ちちちち違うんですっ! すみませんでした類沢さん!」
「ふ、ふふっははは……なにそれ、かわいいー! 良い新入りじゃない」
「鏡子、笑いすぎると皺が増えるわよ」
「うるさい、蓮花」
「あらあら……」
 ガンガンする頭を無視して周りは盛り上がっている。
 すっと悠が濡れたタオルをくれる。
 冷たくて、気持ちいい。
「痛みは引いたか?」
 そうだ。
 治療の余りの痛さに気絶したんだ。
 悲鳴を上げたら格好悪いとか考えて、我慢してたら気を失って。
「多分、引きました」
「明日には傷も塞がってるだろ」
「ありがとう、ございました」
 類沢が頭を撫でる。
 見上げると、優しい笑みを浮かべていた。
「安心したよ」
「俺もです」
 これで、仕事も出来るってものだ。
 指名とって。
 借金返して。
 ピタリ。
 思考が止まる。
 借金返して……
 類沢を見つめる。

 この人と、会わなくなるんだ。

 そんな当たり前の結果。
 動揺する方がおかしい。
 なのに。
 なんで。
 嫌だ。
 なんで。
「類沢、さんっ」
「ん? ナニ?」
 変わらない笑顔。
 営業スマイルと紙一重だが、心の端を見せてくれる飾らない笑顔。
「や、やっぱり……いいです」
「ふぅん」
 類沢は悠の方に近づき、いつも通りにと代金の振り込みを報告した。
「三十万はぼったくりよぉ」
 鏡子は責めるわけでもなく、ただからかうように云う。
 それをわかってるんだろう。
「お前の酒代にもなりゃしない」
 悠も薄ら笑いながら返事をした。
 俺は地面に足をつき、ふらつきながらも立ち上がった。
 そして、手洗いの場所を尋ねた。
 廊下の奥に歩いていく。
 トイレの手前に、小さな洗面所があった。
「はぁ…」
 うがいをし、気分を鎮める。
「お悩み?」
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