あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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体を売るなら僕に売れ

体を売るなら僕に売れ02

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 イギリスかどこかのものだろうか。
 脚の装飾が細かい机。
 上にはエメラルド色のテーブルクロスが緩やかにかかっている。
 その花模様を指で追うと、コツンと写真立てにぶつかった。
 見ると、可愛い少年と美しい女性が手を繋いでいる。
 少し伸ばした髪が、少年の顔を暗くしている。
 手の向こうにいる女性に何を抱いているんだろう。
 森の中の公園の写真で、女性は日傘を持ってにこやかに立っている。
 背後は白い建物で、教会にも保育園にも見えた。
 ひょっとして、この少年は類沢なんだろうか。
「……モテたろうなぁ」
 つい嫉妬してしまう顔立ち。
 そして呆れる。
 何を過去の少年に、と。
 同時に類沢を尊敬する。
 そこまで外見に恵まれたのか、と。
 眺めていると、いくつか発見があった。
 この類沢少年は、腕から先に包帯を巻いている。
 その手を隠すように後ろに回し、ギュッと女性の手を握りしめている。
 怪我。
 映したくない怪我。
 頭の中で空想が始まりそうなので、一旦目を閉じる。
 もう一つ気がかりなのは建物だ。
 余りに白い。
 異常なくらい。
 木々に囲まれ、温かい日差しの中にあるのに、そこだけ別空間のように浮いている。
 なんだろう。
 この違和感は。
 この建物は。
 そして、最後に気になるのは少年の隣に小さな手が見えること。
 心霊写真の類じゃない。
 隣に立っているもう一人の人物が切り取られたような手。
 類沢少年が妙に写真の端にいる理由がこれかもしれない。
 これはある写真の一部なんだ。
 わざわざ、この二人だけを切り取ったもの。
 でも、なんで。
 この手の正体は誰なのか。
 俺は首を捻って写真を眺める。
 まぁ、いいか。
 今度尋ねてみよう。
 そう思った時だった。
 写真の端に数字を見つけた。
 後から書き足したような手書きの数字が四桁。
 1223。
 なんだ、これ。
 落書きにしては整っている。
 たった一枚の写真なのに、なんだか大切な意味が隠されている気がしてならない。
 他に関係するものはないかと机の上を見渡す。
 手帳に万年筆。
 小さな本棚。
 並んでいるのは哲学書に小説。
 気になるタイトルばかりだが、触れないでおこう。
 本は性格を表す。
 勝手に見れば、その人への接し方も変わってしまう。
 それは失礼だし、なんか嫌だった。
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