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体を売るなら僕に売れ

体を売るなら僕に売れ01

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―もしもーし―

―ねぇ、いつまで休んでるの?―

―大学で先生も心配してるよっ―

―アパートに知らない人が住んでたんだけど―

―元気ならいいんだけど―

―連絡くださいな―




―……寂しいよー―



 河南からだ。
 着信が三件。
 全部河南から。
 ホストになったことだけは伝えたが、流石に類沢の家に住んでるとは言えない。
 言えば、喜んで来そうだからだ。
 今になって河南が類沢に惚れていることを恨む。
「メール?」
 突然洗面所に入って来た類沢に驚いて、携帯を落としてしまった。
「なにやってんの……」
 呆れながらも、優しく拾ってくれた。
「彼女からです」
 俺は少しの皮肉を込めて答えた。
 彼女に会いたくても働かなければならないのだと。
「店に来ればいいじゃん」
「なに云って……」
 だが、類沢の目は笑ってない。
 お風呂上がりで濡れた髪を梳きながら、鏡越しに見つめてくる。
「好きなら彼氏の借金の為に身を削るよ。恋人ならね」
 冷たい響き。
「それは……ホストにしか通用しませんよ」
 俺は歯ブラシをくわえる。
 シャカシャカ。
 鏡の中の類沢は寂しげに笑んでいる。
「今日は出掛けるから、合い鍵置いていくね」
 話を逸らしたのか。
 聞かないふりなのか。
 それとも、それが返事なのか。
「いいんですか?」
 あくまで赤の他人だ。
 不用心すぎる。
 類沢はドライヤーを片手に出て行く所だったが、振り返ってこう言った。
「瑞希は盗っ人?」
 パタン。
 俺は歯ブラシをくわえたまま、何も言えなかった。

 宣言通り、昼に類沢はいなくなった。
 残されて手持ち無沙汰な時間を弄ぶ。
 探検してみようか。
 そーっとリビングから類沢の部屋に忍び寄る。
 扉に手をかけて、中を覗く。
「失礼しまーす」
 ホテルの一室かと思った。
 無駄のない完璧な配置の家具。
 大きなドレッサーと机。
 背もたれの高い椅子。
 装飾が隅なく施されているその背をなぞる。
 クッションも厚い。
 そして、美しいタペストリー模様のシーツに包まれたベッド。
 ダブルベッドだ。
 いや、キングサイズか。
 少し乱れたシーツが生活感を漂わせる。
 カチカチ。
 窓の一面を除いた三方の壁で時計が鳴っている。
 三つもいるだろうか。
 恐る恐る机に近づく。
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