あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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郷に入ればホストに従え

郷に入ればホストに従え17

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 学生であること。
 類沢とはシエラで会ったこと。
 まだ二日目ってこと。
「で?」
 煙草をくわえた蓮花にライターを差し出す。
 それを見て彼女が笑った。
「あなたは、なんでホストになったの?」
―雅さんは……どうしてホストになったんですか―
 初めて、俺が彼に尋ねたこと。
「なんで……」
 なんでって。
 それは勿論借金を返さなきゃで。
 二百万のルイを弁償しなきゃで。
 でも、それを言うのは難しい。
 ていうか、言っていいのか。
 蓮花はじっと見つめている。
 なにか、言わなきゃ。
「ふふっ」
 蓮花は耐えきれないように笑った。
「誤魔化したっていいのよ。お金を稼ぎたいとか、モテたいとか、なにかないの?」
 俺は一口飲んで落ち着こうとする。
 喉が渇いて仕方がない。
 目の前にいるのは面識のない女。
 初対面というのが、またキツい。
 答えようというのと同時に、なんでこの人に、とか思ってしまう。
「えと……まだ、俺はゴールとか決めてないんで」
 蓮花は鼻で笑った。
 そして、目を正面から合わせる。
 ドクンと胸が鳴る。
 こんな女性、知らない。
 いや、今まで見たことない。
 強い。
 美しい。
 圧される。
「そのままじゃ駄目よ」
 蓮花はふいと目を逸らす。
「春哉が……なんでこの店開いたか聞いてみなさい? それがわかったら、№4には登れるわ」
「№4……」
 それが頭に響く。
 瀬々より上に。
 そしたら、店も違って見えるかもしれない。
 そんな予感が、ふとした。
「ごめんなさいね。沢山迷わせちゃって。また、来るわね」
 蓮花がバックから財布をとりだす。
 そして、会計の二十万とさらに二十万取り出した。
 それを俺の手に握らせる。
「あの……」
「これは、あなたの門出祝い」
「え?」
 蓮花は髪を指で梳く。
「初の指名客なんでしょ、私」
 ハッと事務室を見る。
 まさか。
 篠田が。
 その首をグイと戻される。
「春哉は関係ない。勿論、新人ホストがいることだけは聞いたけど、頼まれてもない」
「でも」
「でもじゃないの」
 蓮花は戸惑う俺の頬に、そっと口づけをする。
 ゆっくり、顔を離してから彼女は目を細めた。
 俺の胸元に視線を移す。
「怪我、早く治して。女性がびっくりしちゃうわよ」
「あ……」
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