あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
17 / 137
郷に入ればホストに従え

郷に入ればホストに従え09

しおりを挟む
 こんなとこ誰にも見られたくないな。
 赤の他人と歌舞伎町で食事とか。
 類沢は車を使わず、近くのレストランに歩いていった。
「地味な店だけど、ミシュラン一つ星もらってるイタリアンなんだよね」
 通り過ぎる女性たちが悩ましげな瞳で類沢を追う。
 やはり、目立つ。
 歌舞伎町NO.1だからなのか、本人の持つオーラなのか。
「そうそう、外ではハルって呼んでくれる」
「ハル?」
「シエラのNO.1は一人では出歩かない」
「?」
 意味が汲み取れずに首を傾げる。
 すると、類沢は俺の肩に手を回した。
「ちょ」
「キミが彼女役なら良いんだけどね」
 そういうことか。
 俺は不思議な気分になる。
 NO.1だから。
 その響きが切ない。
 自由がない。
 そんな含みがあるから。
 類沢はニコリと笑むと、そこだよと店を指した。

 なるほど、通りから少し外れた場所で知っていなければ見つからない。
 スタスタと慣れた足取りで進む類沢は常連だろうか。
「いらっしゃいませ」
 声ばかりで、ウェイターが出て来る気配はない。
 類沢は構わずカウンターに腰を下ろす。
 グラスを磨いていた初老の男性が目を上げる。
「今日は連れがいるんだね」
「新入りだよ」
 マスターか。
 俺を手招きする。
「暫くぶりだな」
 類沢は神妙に頷いた。
 やはりよく来るのか。
 顔見知りといった雰囲気だ。
「最近動きは?」
「特にないねぇ。ガヴィアのトップが変わった位だ」
「あぁ、あの男ね」
「そのうちシエラを荒らすかもな」
「忠告は受け取っておくよ。暴力団との繋がりもあるしね」
 何の話だろう。
 俺は出されたアイスコーヒーを啜る。
 美味しい。
 少なくとも、さんぴん茶や抹茶よりは飲みやすい。
 注文もしていないのに、奥から皿を持った青年が現れた。
 トマトとチーズのカプレーゼ。
 バジルが乗っかっている。
「どうぞ」
「……いただきます」
 なんか緊張する。
 一口食べると、今までにない繊細な味がした。
 チーズはしつこくなく、トマトはほんのり甘い。
「美味しい?」
「美味しいです」
 それを聞いて類沢は目を細めた。
「圭吾が継ぐの?」
「あいつはホストを諦められないみたいだがなぁ」
 さっきの青年らしい。
 ホストになりたい彼は類沢を見て何を思うのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...