あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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郷に入ればホストに従え

郷に入ればホストに従え04

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 じぃっと見つめられるので、俺は焦りながらグラスに口をつけた。
 だが、キツい香りに液体を飲み込むのが躊躇われる。
 ほんの一口が脳に回り、視界が歪んだ。
 それも一瞬のことで、暫くすると少し赤みがかった現実にピントが戻る。
「酒……ですよね」
 類沢は自分のグラスに注ぐ。
「小手調べってとこかな。強いかどうかのさ」
 俺はなんだか騙し討ちを食らわされたようで気分が良くなかった。
 クラクラするし、舌先が痺れる。
 早く水が飲みたい。
「弱いね」
 一言が随分重かった。
 ショックを受けていると、肩を掴まれソファに押し付けられる。
 それからグラスの中のを口に含むと、俺の唇に重ねた。
「んっ……?」
 まだ事態が把握出来ずにいる中、喉に生ぬるい液体が流れてゆく。
 ギュッと目を閉じていると優しく頬を触れられた。
 ゴク……
 ぎこちなく飲み込んだ酒は、さっきより甘く感じた。
「出来るじゃん」
 類沢は濡れた唇を舐めて囁いた。
 やっと、口移しをされたのだと気づき、顔が熱くなる。
 のしかかる類沢を退けようとするが、力が入らないせいでびくともしない。
「なに……して」
「だから小手調べだって」
 意外なほど、あっさりと下がった類沢はグラスを持ってキッチンの方に消えた。

 呆然とソファにもたれる。
 なんていうんだっけ。
 夢心地じゃなくて。
 信じられない感じの。
 夢うつつ、違くて。
「なにブツブツ言ってるの?」
「うわっ」
 耳元で声が聞こえ、飛んで前につんのめってしまう。
 振り返ると、スーツに着替えた類沢が立っていた。
 右手に持っていたペットボトルを緩やかに投げる。
 キャッチして見ると、さんぴん茶と書いていた。
「……なんで、さんぴん茶?」
「知ってるんだ、さんぴん茶。沖縄ルーツなのにね。酔いを醒ますには良いから、今日はそれを飲んで」
「はい……」
 早速試してみると、全身に冷気が走ったような爽快感があった。
 これなら、いけそうな気がする。
 いや、なにがかわからないけど。
「早く着替えなよ」
 まるでさっきのことなど消え失せたかのように平静とした類沢に、俺も忘れようと首を振った。
 何かの間違いかもしれないし。
 まさか、男が男に口移しなんて。
 そんな。
「あぁ、そうだ瑞希」
「瑞希?」
「今夜は自分で飲みなよ」
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