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噂を確かめて
噂を確かめて08
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拳を強く握りすぎて、柔らかな手のひらが食い込まれ痛い。
それから呼吸も辛い。
「何歳?」
「はい?」
「今何歳かって訊いてるんだけど」
「あっ……えと、二十歳になったばかりですけど」
語気と口調がテーブルにいた時より相当強くなった類沢に、つい萎縮してしまう。
上品さは消え、威圧的な妖しさだけが場に容赦なく放たれている。
怖い。
年上とかいう次元でなく、素性が理解できない彼が怖い。
「ふぅん。一人暮らし?」
「そ……うですね」
次に何を云われるのか、そればかり気にしている自分がいる。
「バイトは?」
なんだか面接を受けている気分だ。
ただ、面接官がこちらに背を向けているという違いがあるだけで。
なんか、大学の面接より緊張する。
「一応、深夜にコンビニを」
「辞めて」
「え」
類沢が肩までの髪を揺らしながら振り返る。
見たことのない蒼く鋭い目が、自分を睨みつけてきた。
「辞めて。明日中に」
「なん……」
何で?
何言ってんだ。
そんなのわかっている。
俺の気持ちを見抜いたのか、彼は目を細めて小さく笑った。
「そうだよ。働いて百万稼いでもらうよ」
今日、俺はホストになった。
あの、未知の世界に踏み入れた。
酔いつぶれた河南を家に送り届けてから、俺は事情をかいつまんで説明した。
酔った冗談だと思ったのか、河南はニヤニヤしながら了承した。
俺の頭痛も知らずに。
頭が痛い。
アパートに帰ってから俺は床に座って、頭を抱えた。
セットした髪が萎えてるのを感じ、余計に気が滅入る。
―辞めて。明日中に―
嘘だろ。
やっと得たバイトなのに。
しかし、百万を稼げるバイトじゃない。
多分、ホストの十分の一にも満たないだろう。
その事実に、少し切なくなる。
だが、ホストになることに何の高揚も覚えない。
何より、その原因が重すぎるのだ。
百万。
稼ぐにはどうしたらいいのか。
ルイとかいう酒を売れば、すぐに解放されるんだろうか。
だったらひと月もかからない、か。
いや、そんなに甘い世界には思えない。
頭に爪が食い込む。
明日、店長になんて言い訳しよう。
「ホストクラブで酒割っちゃって、その弁償に百万いるみたいなんです」なんて信じてもらえるか。
ははは。
あぁー……頭が痛い。
それから呼吸も辛い。
「何歳?」
「はい?」
「今何歳かって訊いてるんだけど」
「あっ……えと、二十歳になったばかりですけど」
語気と口調がテーブルにいた時より相当強くなった類沢に、つい萎縮してしまう。
上品さは消え、威圧的な妖しさだけが場に容赦なく放たれている。
怖い。
年上とかいう次元でなく、素性が理解できない彼が怖い。
「ふぅん。一人暮らし?」
「そ……うですね」
次に何を云われるのか、そればかり気にしている自分がいる。
「バイトは?」
なんだか面接を受けている気分だ。
ただ、面接官がこちらに背を向けているという違いがあるだけで。
なんか、大学の面接より緊張する。
「一応、深夜にコンビニを」
「辞めて」
「え」
類沢が肩までの髪を揺らしながら振り返る。
見たことのない蒼く鋭い目が、自分を睨みつけてきた。
「辞めて。明日中に」
「なん……」
何で?
何言ってんだ。
そんなのわかっている。
俺の気持ちを見抜いたのか、彼は目を細めて小さく笑った。
「そうだよ。働いて百万稼いでもらうよ」
今日、俺はホストになった。
あの、未知の世界に踏み入れた。
酔いつぶれた河南を家に送り届けてから、俺は事情をかいつまんで説明した。
酔った冗談だと思ったのか、河南はニヤニヤしながら了承した。
俺の頭痛も知らずに。
頭が痛い。
アパートに帰ってから俺は床に座って、頭を抱えた。
セットした髪が萎えてるのを感じ、余計に気が滅入る。
―辞めて。明日中に―
嘘だろ。
やっと得たバイトなのに。
しかし、百万を稼げるバイトじゃない。
多分、ホストの十分の一にも満たないだろう。
その事実に、少し切なくなる。
だが、ホストになることに何の高揚も覚えない。
何より、その原因が重すぎるのだ。
百万。
稼ぐにはどうしたらいいのか。
ルイとかいう酒を売れば、すぐに解放されるんだろうか。
だったらひと月もかからない、か。
いや、そんなに甘い世界には思えない。
頭に爪が食い込む。
明日、店長になんて言い訳しよう。
「ホストクラブで酒割っちゃって、その弁償に百万いるみたいなんです」なんて信じてもらえるか。
ははは。
あぁー……頭が痛い。
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