7 / 137
噂を確かめて
噂を確かめて07
しおりを挟む
カシャン……
「あーあ」
背後で類沢の間の抜けた声がした。
冷たい。
俺は激痛の走る腰をなんとか持ち上げようとして手をついた。
ピチャン。
「……?」
右手の下の絨毯に水溜まり。
そして光る破片が沢山。
俺は事態を少しずつ理解して青ざめる。
「マジかよ」
目の前で盆を持ったホストが毒づく。
その空の盆から想像できるのは一つ。
そろりと辺りを見回すと、高級そうな瓶が数本砕けて散っている。
店は静まり返り、次々と視線が俺を突き刺す。
「怪我はない?」
類沢が豪壮なハンカチを渡しながら、手を貸してくれた。
濡れた服が気持ち悪いが、今は構っていられなかった。
俺が言葉を選んでいると、客から声が上がった。
「ちょっと、あれ私が頼んだルイじゃないの? アノ子新入り?」
ざわざわ。
やばい。
とりあえず焦る。
「なんか格好良くない? ヘルプつけようよ」
「えー……トロそうじゃん」
「かわいそう、あれ全部で百万はするよね。弁償かなぁ」
俺は立ち尽くすしかなかった。
ぶつかったホストは人を呼び、割れたボトルを処理させる。
類沢の目を見ないようにしている。
当の本人は、軽く首を振ってから店内の客に頭を下げた。
「お騒がせ致しました。皆様にはご迷惑のほんのお詫びにシャンパンを入れさせて頂きます。ごゆるりとお過ごし下さい」
それだけで店の活気が元に戻る。
俺はただ絶句していた。
それから類沢に手を引かれて、席に戻ったかと思えば、河南に「彼氏をお借りします」と一言告げて、奥に連れて行かれた。
「はぁ……」
関係者用の事務室に通される。
小さく溜め息を吐いた類沢は手ぶりだけで椅子に座るよう指示した。
逆らうことも出来ないので、腰掛ける。
だが、落ち着くことはない。
一度に色々起こりすぎた。
「あの……」
「ルイ――三十万が四本」
「はい?」
暗号のような言葉に首を傾げる。
「君が今日割ったボトルだよ。百二十万の損失だ」
なにも言えない。
やはり弁償だろうか。
「払えるわけ?」
背を向けたまま、彼は問い詰める。
その怒った肩を見ているのは、逆に恐怖を呼び起こさせる。
「……できるわけないよね。君、学生だろ。貯金は?」
「えと、二十万くらいですかね」
「残り百万、どうするの」
その声に容赦はない。
「あーあ」
背後で類沢の間の抜けた声がした。
冷たい。
俺は激痛の走る腰をなんとか持ち上げようとして手をついた。
ピチャン。
「……?」
右手の下の絨毯に水溜まり。
そして光る破片が沢山。
俺は事態を少しずつ理解して青ざめる。
「マジかよ」
目の前で盆を持ったホストが毒づく。
その空の盆から想像できるのは一つ。
そろりと辺りを見回すと、高級そうな瓶が数本砕けて散っている。
店は静まり返り、次々と視線が俺を突き刺す。
「怪我はない?」
類沢が豪壮なハンカチを渡しながら、手を貸してくれた。
濡れた服が気持ち悪いが、今は構っていられなかった。
俺が言葉を選んでいると、客から声が上がった。
「ちょっと、あれ私が頼んだルイじゃないの? アノ子新入り?」
ざわざわ。
やばい。
とりあえず焦る。
「なんか格好良くない? ヘルプつけようよ」
「えー……トロそうじゃん」
「かわいそう、あれ全部で百万はするよね。弁償かなぁ」
俺は立ち尽くすしかなかった。
ぶつかったホストは人を呼び、割れたボトルを処理させる。
類沢の目を見ないようにしている。
当の本人は、軽く首を振ってから店内の客に頭を下げた。
「お騒がせ致しました。皆様にはご迷惑のほんのお詫びにシャンパンを入れさせて頂きます。ごゆるりとお過ごし下さい」
それだけで店の活気が元に戻る。
俺はただ絶句していた。
それから類沢に手を引かれて、席に戻ったかと思えば、河南に「彼氏をお借りします」と一言告げて、奥に連れて行かれた。
「はぁ……」
関係者用の事務室に通される。
小さく溜め息を吐いた類沢は手ぶりだけで椅子に座るよう指示した。
逆らうことも出来ないので、腰掛ける。
だが、落ち着くことはない。
一度に色々起こりすぎた。
「あの……」
「ルイ――三十万が四本」
「はい?」
暗号のような言葉に首を傾げる。
「君が今日割ったボトルだよ。百二十万の損失だ」
なにも言えない。
やはり弁償だろうか。
「払えるわけ?」
背を向けたまま、彼は問い詰める。
その怒った肩を見ているのは、逆に恐怖を呼び起こさせる。
「……できるわけないよね。君、学生だろ。貯金は?」
「えと、二十万くらいですかね」
「残り百万、どうするの」
その声に容赦はない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる