あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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噂を確かめて

噂を確かめて06

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「河南、このまま話さない気か?」
 ドンペリロゼが入り、類沢が作っている隙に尋ねる。
 河南はうっすら赤い顔を横に振る。
「でもぉ……瑞希はイヤなんでしょ」
「なにが」
 彼女はグラスを置いて、俺をじっと見つめる。
「私がホストと話してるのを、イヤなんでしょ」
「どうぞ」
 割り込むように類沢が、光る液体に満ちたグラスを手渡す。
 河南は恐る恐るそれを受け取った。
「ありがとう」
 類沢は嬉しそうに唇を持ち上げた。
 綺麗な笑みだ。
 上品で妖しい。
 こんな笑い方、自分には出来ない。
「どうぞ」
 俺は彼の目から視線を外さずに、お酒をもらった。
「今日の出逢いに、乾杯」
 四人が同時にグラスを掲げた。

 酔いが回ってきて、河南はうつらうつらと揺れ始めた。
 弱いというのに、シャンパンとドンペリを飲めば潰れるのも当たり前だ。
 コテンと倒れた河南の肩を抱く。
「帰る?」
「んーん……帰んない」
 そう言って寝息を立て始めた。
「寝てんじゃん……」
「直ぐ閉店です。車、お出ししましょうか」
「まさか、そんな迷惑かけませんよ」
 俺は手を振って辞退する。

 少しフラついたので、河南を預けて手洗いに席を立った。
 何人ものホストとすれ違う。
 みんな、違う匂いがした。
 自分の手首を嗅ぐ。
 俺は、どんな匂いがしてるんだろう。
 手洗いは小さな洗面スペースと、個室が二つあるだけだった。
 目を擦りながら、個室の一つに入る。
 それから手を洗いに出てきたら、類沢が立っていた。
 シャンデリアの下にいた時よりも存在感を放つ長身。
 化粧を施した美しい顔。
 俺は会釈して立ち去ろうとした。
 その肩を掴まれ、引き戻される。
 個室の扉に押しつけられ、意味もわからず足がよろけた。
 ぶつけた背中が痛い。
 腰を支えられ、不安定なまま扉に寄りかかる。
「あの……なんすか」
 類沢は俺を見下ろして微笑んだ。
 その笑みは、今日見た中で一番恐ろしく輝いた。
「気に入ったよ」
「はい?」

 ガタン。
 勢い良くトイレを飛び出し、河南の元に走った。
 早く出てしまおう。
 こんな店。
 唇を強く拭う。
 ヒリヒリした。
―手に入れたいくらい……―
 あいつは頭おかしいのか。
 キ、キスしやがった。
 俺は動転したまま走る。
「危ない!」
 声の前に、ぶつかった。

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