あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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噂を確かめて

噂を確かめて05

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 ホスト。

 この言葉って変だ。
 言った瞬間、なんか悪いことをしたような恥ずかしさがある。
 綺麗な響きがまた妖艶すぎる。
 近付きがたく、惹かれる。
 変だ。
 しかし、河南が言うと癪に触る。
「ホストかっこいい」
 その辺の女が言っても、馬鹿だなって感じるしかないが、河南が言うと逆なでされた気分になる。
「ホストかっこいい。瑞希は」
 そう続く空気なのだ。

 ホスト。

 今、俺はホストの前にいる。
 それも歌舞伎町NO.1らしい。
「どうしました?」
「え」
「随分視線が止まってましたが、僕の顔になにかついてましたか?」
 寄りによって、類沢を見たまま物思いに耽っていたらしい。
 慌てて否定するが、すぐに何故こんなに慌てているのかわからなくなる。
 河南はマイペースにシャンパンを飲み続け、若いホストと話している。
 俺を放っとくなよ。
 そこで、河南の耳が赤いのに気づく。
 なるほど。
 目当ての類沢とは話すのが気後れするのか。
「類沢さ」
「雅です」
「雅さんは……どうしてホストになったんですか」
 鋭く訂正され、早口で尋ねる。
 数秒沈黙した類沢は、可笑しそうに首を振った。
 額を指で押さえて笑いを噛み殺す。
 俺はなにか奇妙なことでも言ってしまったのだろうか。
「くく……どうも、すみません。あまりに面白かったので」
「なにがですか」
 あ。
 知らぬ間に敬語になっている。
「君は、そんなこと訊きにわざわざ僕のところにいらっしゃったんですか」
「それ以外に……思いつかなくて」
 彼はふっと真剣な顔で俺を見つめる。
「知りたいですか」
 頷こうとして止まる。
 パンドラの箱を開けるような寒気がしたのだ。
 それは、類沢の蒼く冷たい瞳のせいだったかもしれない。
 ともかく俺は硬直してしまった。
「……エス券、か」
「はい?」
「いえ、失礼」
 また微笑んでから、彼はこういった。
「初来店記念に一本差し上げますよ」
 なんのことかと思っていると、河南と話している男に目配せする。
「ドンペリロゼ入ります」
 今の目配せに酒の種類まで含まれていたのだろうか。
「ホストクラブが……苦手みたいですね」
 類沢が足を組み直しながら言った。
 態度に現れていたのだろうか。
「苦手というより、未知でして」
「知ると面白いですよ」

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