1 / 137
噂を確かめて
噂を確かめて01
しおりを挟む
蒸し暑い夜。
ネオンの光が放つ微熱さえ肌を焼く。
そんな夜。
どこまでも追いかけてくる気だるさを、女性達は振り払いにやってくる。
類沢は煙草を指先で回す。
闇なんて、この街にはない。
眠らない街。
歌舞伎町。
光が好きな虫が集まる街。
ここが僕の世界。
「類沢、アフターから帰ってきたなら声かけろよ」
篠田が隣に来て、ベランダに寄りかかる。
店の二階は小さなバーになっていて、明け方までベランダで飲むのが習慣だった。
「明るいなぁ……」
「煩いくらいにね」
「この真ん中にいるって不思議だよな」
「そう?」
二人はグラスを片手にビルに埋められた空を仰ぐ。
「また新人二人を首にしたって?」
「ノルマも達成できない奴ら抱えても仕方ないだろ」
篠田は苦く笑う。
「チーフの代わりに人選してくれんのは助かるけどよ、少し厳しすぎないか」
星が流れる。
今夜は流星群だとテレビが騒いでた。
こんな環境じゃ見れないだろうと思っていた分、その一筋の残像が妙に消えない。
「……派閥を持つって、甘いんじゃやってけないから」
無表情で煙草を潰す横顔に、篠田は何か切ないものを感じた。
類沢が店にやって来て四年。
初めはどこにも属さない彼は、細々と指名客に着くのみだった。
いつからだったろう。
彼の写真が頂点に飾られるのが当たり前になったのは。
記憶が曖昧というよりは、未だ自分が事実を信じてない気がする。
六歳年下の彼が、手に負えなくなるのを否定するように。
まだ二十九歳の類沢に。
「寝る……」
空になったグラスを置いたまま、彼はバーを出て行った。
丁度顔を出した太陽がその背を照らす。
彼がそれを浴びて笑う日は帰ってこないのだろうか。
昼夜逆転したホストたちは、夜に太陽の代わりに自分を輝かせるしかない。
「おやすみ」
類沢が残したグラスに呟く。
代金を払えと言うグラスに。
夜明けが来ても、この街はしつこく夜の尾を引いている。
酔って千鳥足の男。
男に抱えられて、ホテルに連れられる女。
夜に零された残飯にありつく烏。
類沢は静かにその中を歩いた。
退屈。
怠惰。
虚無。
空虚。
今の気分は随分沢山の名をお持ちだ。
路地に入ってゆく彼の後をじっと見つめる青年を、まだ彼は知らない。
ネオンの光が放つ微熱さえ肌を焼く。
そんな夜。
どこまでも追いかけてくる気だるさを、女性達は振り払いにやってくる。
類沢は煙草を指先で回す。
闇なんて、この街にはない。
眠らない街。
歌舞伎町。
光が好きな虫が集まる街。
ここが僕の世界。
「類沢、アフターから帰ってきたなら声かけろよ」
篠田が隣に来て、ベランダに寄りかかる。
店の二階は小さなバーになっていて、明け方までベランダで飲むのが習慣だった。
「明るいなぁ……」
「煩いくらいにね」
「この真ん中にいるって不思議だよな」
「そう?」
二人はグラスを片手にビルに埋められた空を仰ぐ。
「また新人二人を首にしたって?」
「ノルマも達成できない奴ら抱えても仕方ないだろ」
篠田は苦く笑う。
「チーフの代わりに人選してくれんのは助かるけどよ、少し厳しすぎないか」
星が流れる。
今夜は流星群だとテレビが騒いでた。
こんな環境じゃ見れないだろうと思っていた分、その一筋の残像が妙に消えない。
「……派閥を持つって、甘いんじゃやってけないから」
無表情で煙草を潰す横顔に、篠田は何か切ないものを感じた。
類沢が店にやって来て四年。
初めはどこにも属さない彼は、細々と指名客に着くのみだった。
いつからだったろう。
彼の写真が頂点に飾られるのが当たり前になったのは。
記憶が曖昧というよりは、未だ自分が事実を信じてない気がする。
六歳年下の彼が、手に負えなくなるのを否定するように。
まだ二十九歳の類沢に。
「寝る……」
空になったグラスを置いたまま、彼はバーを出て行った。
丁度顔を出した太陽がその背を照らす。
彼がそれを浴びて笑う日は帰ってこないのだろうか。
昼夜逆転したホストたちは、夜に太陽の代わりに自分を輝かせるしかない。
「おやすみ」
類沢が残したグラスに呟く。
代金を払えと言うグラスに。
夜明けが来ても、この街はしつこく夜の尾を引いている。
酔って千鳥足の男。
男に抱えられて、ホテルに連れられる女。
夜に零された残飯にありつく烏。
類沢は静かにその中を歩いた。
退屈。
怠惰。
虚無。
空虚。
今の気分は随分沢山の名をお持ちだ。
路地に入ってゆく彼の後をじっと見つめる青年を、まだ彼は知らない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる