どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晒された命

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 河南がキラキラ光る砂の中で、精一杯笑顔を見せる。
「もう一回、瑞希ちゃんに会いたかったな」
「河南! 手を伸ばして。一緒に行こうっ」
 笑ったまま、頭を振る。
 横に。
「行けないよ」
 砂場が消える。
 彼女は砂に巻かれ、だんだん赤く染まった。
 血。
 あまりに美しい彼女には、似合わない赤。
「行けない」
「河南……」
「瑞希ちゃん、気づいてるでしょ」
「い……いやだ」
 胸がえぐられるように攣る。
 悲鳴を噛み殺し、河南の方に手を伸ばす。
「河南!」
「私はね、私は……」
 言葉に詰まり、真っ赤な手で涙を拭う。
 いやだ。
 聞きたくない。
 それでも河南の声は心に響く。
「私は一昨年……っ、学校の帰り道にね……」
 痛みも忘れる。
 そう思い込んだだけかもしれない。
 でも、今は彼女に触れなきゃいけない気がした。
 言葉を続けられずに崩れる彼女に。
 少しずつだけど、砂場に近づく。
 何十もの手に背中を引っ張られている感覚がする。
 髪を引かれ。
 腕を引かれ。
 服を引かれ。
 でも、歩いた。
 真っ赤な制服の中で苦しむ河南の元に。
「会いに行けなくてごめんっ!」
 伸ばした両手が、彼女の肩を貫く。
 呆然として、手を下げる。
 触れない。
 触れない。
 さっきみたいに触れない。
「瑞希ちゃん、最後に触れられて良かったよ」
「河南、河南! 行くなって!」
 砂が彼女を覆い尽くしていく。
「私はどこにも行かないよ。ずっとここにいるの」
 鳥肌が立つ。
 ザクッ。
 足から崩れ落ちる。
 そのまま無数の手に引かれる。
「河南っ!」
―瑞希ちゃんには、私以上に必要な人がいるでしょう?―
「誰だよっ、そんなの!」
―思い出して。私の声なんか忘れてさ、その人に耳を傾けなきゃ―
「できないよ!」
―できるよ。だって、瑞希ちゃんは今までそうして来たんだから―
「知らない!」
―思い出して。思い出せるから。ほら、その手は誰のもの?―
 自分の手を掴む手。
 いや、優しく握る手。
 大きくて、細い手。
 俺は、何度もこの手に救われた。

 そうでした。
 類沢先生。

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