どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晒された命

24

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 指先から紙片が落ちる。
 口元が笑い、無様に歪む。
「ふ……くく。こっちのセリフだ」
 ああ。
 消えた。
 何かが消えた、感触がした。
 ガンッ。
 椅子が壁にぶつかり、一瞬後に落下した。
 宙に浮いた足が、そっと地に着く。
 痛みは無い。
 ソファに手を掛け、一気に背から床に叩きつける。
 連続して支柱の木が折れる。
「はは……あはははっ」
 弾けた綿が散らばる。
 いっそ、視界を白く埋めてしまえばいいのに。
 ガタン。
 棚が倒れる。
 本が舞う。
 ガラスが割れる。
 ワインが流れ、手が赤く濡れる。
 息を吐いて、部屋を見渡すと、原型を留めているものなどなかった。
 白い壁にもたれ、煙草をくわえる。
 火を点け、ライターを投げる。
 空中で熱だけ残して火が消える。
「あーあ……」
 荒れた部屋を眺める。
「こんなんじゃ、瑞希呼んで麻那さんと食事出来ないね」
 煙を吸い、煙を吐く。
 味はしない。
 ただ、肺を汚すだけ。
 破片が刺さったんだろうか。
 血が垂れる腕を見下ろす。
 釘の刺さった瑞希の腕が重なる。
 西雅樹を、助けて。
 あんな状況で、よく自分を傷つけた人間を心配できるね。
 馬鹿な瑞希。
「馬鹿はどっちだろうね」
 朝日が無遠慮に、カーテンを貫き照らし出す。

 チャイムが鳴る。
 二時間ほど寝ていたみたいだ。
 乱れた服と、壊れた部屋をそのままに立ち上がった。
「はい?」
 眩しい朝日の中に、彼のシルエットが浮かび上がる。
 シャツの裾を握り締め、どうしたらいいかわからない顔をして。
 癖の残る髪は、帰っていない証拠。
「お……おはようございます」
 段々小さくなる声に頬が緩む。
「入ったら? 足の踏み場もないと思うけど」
 顔を上げて、少しだけ微笑んだ雅樹はぐらりと傾いた。
 抱き留めた手から力が抜け、二人で玄関に倒れる。
 靴箱に肩でもたれ、両腕の中に雅樹を包む。
「寝不足だね」
「先生こそ」
 見下ろしたうなじには沢山の引っ掻き傷が残っている。
 それを撫でると、雅樹が身を起こした。
「……怒ってないんですか」
「右を見たらわかるよ」
 恐る恐る右に向けた目を見開く。
「怒ってるじゃないですか」

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