どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晒された命

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「俺はないと思う。だから裁判の条件をああ決めた」
 ボトルの蓋を外す音が聞こえる。
「免許と一緒に、過去も消せればいいのに……」
「俺を使って先生呼び出す気?」
「宮内はこれを飲むだけでいい」
 チャプンと液体が揺れる。
「なにそれ」
「睡眠薬」
「なんで?」
「聞かれたくない会話だってあるだろ」
「なんで?」
「……煩いな。無理やり飲ますのイヤなんだよ」
 雅樹がユラリとベッドに近づく。
 俺はかろうじて右手を上げ、制した。
「一つ約束したら飲む」
 本当は死んでも飲みたくないんだけど。
 どうせ飲まされる。
 さっきの腕力でわかる。
 こいつは喧嘩慣れしてる。
「約束?」
 雅樹が体勢を戻す。
 ボトルを指先で持ちながら、話を促した。
「類沢先生に交渉したいことがあるんだよな」
「まあね」
 そこは隠す気はないのか。
 どこが境界かわからない。
 脈が聞こえる。
 喉が渇く。
「ソレさ、類沢先生に向ける前に、俺に向けてくれない?」
 雅樹は指で差されたものを見下ろし、眉を潜めた。
「死にたいの?」
「違くて」
 俺は苦笑しながら否定する。
 そして、嫌な予感が的中したことを悟った。
 西雅樹。

 あんた、今なんて言った。

 指が震える。
 肌に寒気が走る。
 夢に現れた写真。
 俺と類沢に銃を向ける西。
 類沢はその銃口を持って自分に向けていた。
 頭の後ろがピリピリと痺れる。
「約束だから」
 俺はボトルを奪い、飲み干した。
 その、フリをした。
 雅樹はフッと笑って下に降りて行った。
 足音を確認してから、口に含んだ液体をそばのティッシュに吐き出す。
 あぁ、ダメだ。
 瞼が下がる。
 一口は飲んでしまった。
 布団に身を任せる。
 体から力が抜ける。
 雅樹が来た時点でメールをすれば良かったな。
 そしたら、類沢先生は来ないで済むのに。
 どんなにそれが良かったか。
 だって、雅樹は確実に類沢を殺す気でいるから。
 その覚悟でいるから。
 怖い。
 あんなに淡々と殺意を曝す人間を初めて見た。

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