どこまでも玩具

片桐瑠衣

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晒された命

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 ピンポーン。
 弦宮は玄関を開けた。
 類沢だと思って。
「こんばんは。類沢せん……」
 そこにいたのは女の子。
 可愛らしい包みを抱えて、満面の笑顔で。
「あら。どうしたの、こんな夜遅くに」
「あっ。え、と……類沢せんせはいらっしゃいますか」
 有紗は戸惑いながらも見たことのない女性に会釈する。
 まさか、妻?
 そんなはずはない。
 じゃあ、誰?
「雅は今いないの。もうすぐ帰って来るから中で待っていたらどう? 寒かったでしょう」
「良いんですか!」
 有紗は念願の家に入れる喜びに飛び上がった。
 そして頭の中で西雅樹に感謝する。
 宮内瑞希の家を教える代わりに、類沢せんせの家を教えてもらったのだ。
 だからこそ休みの朝早くに話を聞きに行った。
「学園の生徒ね」
「はい!」
「雅はどんな教師?」
 有紗は少し怯んだ。
 名前で呼び合う仲。
 やっぱり恋愛対象なのか。
 その視線を汲み取った弦宮が笑う。
「あらあら。違うわ。私はあなたのライバルにはならないわ」
 その笑みにつられて笑う。
 無邪気で、優しくて、寂しい笑みに。
「類沢せんせは素敵でムチャクチャ格好良い先生です! 就任二カ月弱なのに、毎日女子に囲まれてて」
「そう……」
「あの髪型も最高に好きなんです! 白衣も凄く似合ってて、あんなにスタイル良い男性はいませんよね。バレンタインチョコは今から予約したんですよ。今日はクリスマスのプレゼントを……」
 涙がポロポロ流れる。
 あれ。
 どうして。
 せんせ。
 弦宮は黙ってハンカチを渡した。
 きっと、類沢の失いたくないものに彼女は入っていないんだろう。
 私も、か。
 滲む涙を拭く。
 有紗はわぁっと泣いた。
 せんせ。
 せんせ。
 どこにいるんですか。
 誰の隣にいるんですか。
 まだ何一つ断られた訳でもないのに泣けてきて。
 飾った体が妙に虚しく思えてきて。
 胸が空っぽになって。
 これ以上、好きを喋るのが苦しくなりました。
 咽ぶ。
 叫ぶ。
 せんせ。
 私は本気でした。
 大本気でした。
 私は貴方を愛してました。
 でも、気づいてしまったんです。
 私の末路を。

 きっと貴方は選ばない。

 西雅樹を選ばなかったように。
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